糖尿病治療薬SGLT2阻害薬、利尿作用・抗炎症作用など結石形成抑制効果
東北医科薬科大学は11月7日、糖尿病治療薬のSGLT2阻害薬について、腎結石形成抑制効果を明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部泌尿器科学教室の阿南剛助教(現:四谷メディカルキューブ泌尿器科科長)と統合腎不全医療寄附講座/東北大学大学院医学研究科の廣瀬卓男助教、東北医科薬科大学病院薬剤部の菊池大輔副薬剤師長らの研究グループの研究グループによるもの。研究成果は、「Pharmacological Research誌」に掲載されている。
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尿路結石症は男性15%、女性7%(男性7人に1人、女性15人に1人)が生涯で罹患する罹患数の多い内分泌代謝疾患の1つで、猛烈な痛みを伴う。再発率が高く、5年で約50%の人が再発するとされている。尿路結石の約90%は結晶成分としてシュウ酸カルシウムを含むが、このカルシウム含有結石の形成を抑制したり、溶解したりする薬はなく、根本的な治療薬は存在しない。結石の最も有効な予防方法は「しっかり水分を摂ること」である。そのため、尿路結石症の成因の究明、再発予防法、治療薬の確立は喫緊の課題となっている。
今回研究グループが注目したSGLT2阻害薬は、腎臓でのグルコースの再取り込みを抑制して血糖を低下させる糖尿病治療薬の1つ。近年では、心臓保護作用や腎臓保護作用が着目されている。さらに、SGLT2阻害薬は、利尿作用や抗炎症作用といった結石形成に抑制的に働く効果を持っている。研究グループは、SGLT2阻害薬が結石形成を抑制するのではないかと考えた。しかし、これまでSGLT2阻害薬と腎結石形成に関する詳細な検討はなされていなかった。
SGLT2阻害薬使用患者で尿路結石の有病割合が有意に低下、DPCデータベースより
今回の研究では、まず、日本のDPCデータベース(糖尿病患者約153万人)を使用し、リアルワールドデータ(医療ビッグデータ)でSGLT2阻害薬処方の有無で尿路結石の有病率に差があるかを検証。約90万人の男性糖尿病患者のうち、SGLT2阻害薬の処方されている患者での尿路結石有病率は2.28%、SGLT2阻害薬の処方されていない患者での尿路結石有病率は2.54%であり、SGLT2阻害薬の使用患者では尿路結石の有病割合が有意に低下していた。
SGLT2阻害により腎結石形成抑制、OPNや炎症関連遺伝子発現が低下
次に、シュウ酸カルシウム腎結石形成ラットとマウスを使用した動物実験により、SLGT2の阻害が結石形成にどのように関与しているかを検討。シュウ酸カルシウム腎結石形成ラットでは、SGLT1/2阻害薬のフロリジン投与により、腎結石形成量が有意に抑制された。また、結石形成に重要なタンパク質オステオポンチン(OPN)の発現や炎症マーカータンパク質、腎障害・線維化マーカータンパク質もフロリジン投与により有意に低下した。
一方、研究グループはフロリジンの利尿作用による尿量増加を想定していたが、飲水量と尿量に有意な差は認めなかった。つまり、今回の腎結石形成抑制作用は利尿作用ではなく、抗炎症作用によるものと考えられた。加えて、SGLT2ノックアウトマウスでは、シュウ酸カルシウム腎結石の形成がほとんど認められず、OPNを含む結石形成や炎症に関わる遺伝子発現もワイルドタイプマウスに比べて有意に低下していた。また、ヒト近位尿細管培養細胞を使用した検討においても、動物実験の結果と同様に、SGLT2の阻害によりシュウ酸カルシウム結晶接着量の低下ならびにOPNを含む結石形成や炎症に関わる遺伝子発現の有意な低下を認めたという。
腎結石形成メカニズムの解明と治療薬への応用に期待
今回の疫学研究、動物実験、細胞実験により、近位尿細管でのグルコース取り込みを抑制するSGLT2阻害薬が、OPN発現抑制ならびに抗炎症作用により腎結石形成を抑制することが明らかになった。カルシウム含有腎結石に対する予防薬・治療薬はこれまで存在していないため、腎結石形成メカニズムの解明ならびに腎結石治療薬への応用が期待できると考えられる、と研究グループは述べている。
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