ワクチンによって抗体が作られる量には個人差がある
千葉大学は11月7日、新型コロナワクチンを接種した後に体内で作られる抗体の量に、免疫グロブリン重鎖の2つの遺伝子にみられるDNA配列の違い(バリアント)が影響することを発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究院公衆衛生学の尾内善広教授、真下陽一技術専門職員、アレルギー・臨床免疫学の中島裕史教授、医学部附属病院感染症内科の猪狩英俊教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Infection」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
免疫グロブリンはBリンパ球という細胞が作りだすタンパク質の複合体で、IgG、IgAなどの種類がある。体内や粘膜の上で病原体や毒素などの抗原に結合する「抗体」として、それらの有害性を抑え、病気から体を守る「免疫」の役割をはたしている。ヒトの体は、さまざまな抗原に合う抗体を作れるように、あらかじめBリンパ球のレパートリーをつくって備える仕組みをもっている。新型コロナウイルスはその表面にウイルスが細胞の中に侵入して増殖するために不可欠なスパイクと呼ばれるタンパク質をもっている。スパイクに結合してその働きの邪魔をする作用をもつ抗体(中和抗体)が体内に十分にあれば、ウイルスに感染しても病気の発症や重症化を免れることができる。新型コロナウイルスのmRNAワクチンの接種を受けると体内でスパイクが合成され、それに対して抗体が作られることでワクチンは効果を発揮する。しかし抗体が作られる量(抗体価)には個人差があり、抗体価が低いとブレークスルー感染のリスクが高くなる。
性別や年齢、飲酒の習慣だけでなく免疫に関わる遺伝子型の違いも影響するのか
研究グループは、千葉大学医学部附属病院コロナワクチンセンターでワクチン接種を受けた職員を対象とした研究を行っており、今までにワクチン接種後の抗体のでき方に性別や年齢、飲酒の習慣などが影響することを報告している。今回、Bリンパ球のレパートリーの中に、新型コロナウイルスのスパイクに結合する抗体を作る細胞を、生まれつきの遺伝子の型の違いによって多く持つ人、少なく持つ人がいて、それがワクチン接種後の抗体価の個人差に影響しているのではないか、と考え研究を行った。
Bリンパ球がもつ免疫グロブリンの設計図IGHV3-53とIGHV3-66のバリアントを解析
新型コロナウイルスに対する中和抗体をその遺伝子に注目して調べた海外の先行研究で、IGHV3-53とIGHV3-66が特に重要で、中和抗体の設計図としてよく使われていることが知られていた。千葉大学医学部附属病院コロナワクチンセンターではこれら2つの遺伝子に注目し、新型コロナワクチン(ファイザー社BNT162b2)の接種を受けた職員を対象に、研究を行った。まず、研究参加者の血液中から集めたBリンパ球がもつ免疫グロブリンの設計図を多数調べた。その結果、IGHV3-53とIGHV3-66が用いられた設計図の割合がそれぞれの遺伝子のバリアントによって変化すること、そしてIGHV3-53ではバリアントのT型、IGHV3-66ではバリアントのC型のアレルにそれぞれの遺伝子が利用される確率を高める、つまりIGHV3-53ないしIGHV3-66を設計図に使ったB細胞を増やす効果があることがわかった。続いて、2つのバリアントの型と、ワクチンの接種を2回受けた後のスパイクに対する抗体価の関係を解析し、IGHV3-53のバリアントのT型、IGHV3-66のバリアントのC型のアレルを多くもつほど抗体価が高くなることを見出した。以上のことから、当初の仮説通り、この2つの遺伝子、IGHV3-53とIGHV3-66の型の影響で、これらを免疫グロブリンの設計図として使うB細胞を生まれつき多く持つ人ほどワクチン接種後の抗体量が多くなりやすい、ということが示唆された。
新たな抗体価関連遺伝子や副反応の出やすさにかかわる遺伝子の特定を目指す
今回の研究では新型コロナワクチン接種後の抗体価に影響する遺伝子のバリアントが世界で初めて特定された。研究グループでは全ゲノムに検索の範囲を広げた解析を進めており、新たな抗体価関連遺伝子や副反応の出やすさにかかわる遺伝子の特定を目指しているという。「これらの研究の成果は新たなワクチン開発や予防プログラムの開発に役立つと期待される」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・千葉大学 ニュース・イベント情報