鼻粘膜に免疫細胞の浸潤を促す物質は?アレルギー性鼻炎モデルマウスで検討
東京大学は11月1日、アレルギー性鼻炎の症状を呈するモデルマウスを作製し、このマウスの鼻腔に脂質12-hydroxyeicosatetraenoic acid(12-HETE)の濃度が著しく上昇していることを発見したと発表した。この研究は、同大大学院農学生命科学研究科応用動物科学専攻博士課程の橘侑里氏(研究当時)、同大大学院農学生命科学研究科応用動物科学専攻の中村達朗特任講師(研究当時)、同大大学院農学生命科学研究科獣医学専攻の村田幸久准教授の研究グループによるもの。研究成果は、「Allergy」に掲載されている。
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花粉症などのアレルギー性鼻炎には、くしゃみや鼻水など抗原刺激の後すぐに出てくる即時症状と、鼻づまりなど数時間後に出てくる遅発症状がある。遅発症状に対しては薬が効きにくく、睡眠障害や労働効率の低下を引き起こすなど、患者のQOL(生活の質)を大きく低下させるため、その発症機序の解明と新たな治療法の開発が求められてきた。これまでに、抗原の刺激によってマスト細胞からヒスタミンが放出され、くしゃみや鼻水といった急性症状が出た後、鼻の粘膜に好酸球やT細胞といった免疫細胞が分化・浸潤し、これらの細胞がサイトカインやケモカインを産生することで、鼻粘膜の粘液亢進や浮腫を引き起こすことはわかっていた。しかし、鼻粘膜に免疫細胞の浸潤を促す物質についての検討は十分に行われていなかった。
そこで今回の研究では、アレルギー性鼻炎モデルマウスの鼻汁中で高濃度に検出される脂質を特定し、これが鼻炎症状に与える影響と、そのメカニズムを調べた。
モデルマウス鼻腔で12-HETE濃度が著しく上昇
卵白アルブミンをマウスに5回経鼻投与することにより、くしゃみや鼻粘膜における粘液亢進、鼻粘膜の腫脹を呈するアレルギー性鼻炎モデルを作製。このマウスの鼻粘膜では、卵白アルブミンの投与回数に比例して、マスト細胞の脱顆粒や免疫細胞である好酸球、そしてT細胞の浸潤増加が観察された。このマウスの鼻汁(鼻腔洗浄液)を回収して、質量分析により脂質濃度を測定したところ、他の脂質と比較して最も鼻汁中の濃度が上昇した脂質として12-HETEが特定された。
ALOX12産生の12-HETE、好酸球・T細胞浸潤で鼻炎症状など増悪
免疫組織学的検討から、12-HETEの合成酵素として知られるarachidonate 12-lipoxygenase(ALOX12)が鼻粘膜に浸潤してきた好酸球に発現していることが確認された。ALOX12阻害剤を卵白アルブミンの投与前に処置したところ、マウス鼻汁中の12-HETE産生は抑制され、鼻粘膜の粘液亢進が抑えられた。この時、鼻粘膜への好酸球やT細胞の浸潤も抑えられていたという。ALOX12阻害剤に加えて12-HETEをマウスの鼻腔に処置すると、ALOX12阻害剤によって抑制されていた卵白アルブミン誘発性の上記症状が再発することが確認された。つまり、アレルギー性鼻炎のモデルマウスにおいて、好酸球のALOX12から産生される12-HETEが、さらなる好酸球やT細胞の浸潤を引き起こし、鼻炎症状、特に遅発症状を増悪することがわかったとしている。
12-HETE、PPAR-γシグナル活性化でリンパ節内のT細胞分化を促進
これらの機構を調べるために、鼻腔の所属リンパ節における免疫細胞の分化状態を評価。その結果、卵白アルブミンの刺激に応じて、アレルギー反応の成立に必要とされるIL-4やIL-5といったサイトカインを産生するT細胞の数がリンパ節内で増加していた。ALOX12の阻害剤の投与はこれを抑制し、12-HETEの追加投与がこの抑制を解除することがわかった。さらに、これらのT細胞の分化に必要なPPAR-γシグナルを阻害すると、12-HETEの作用が消失することがわかった。つまり、12-HETEはPPAR-γシグナルを活性化させ、リンパ節内のT細胞分化を促進する働きを持つことが明らかとなった。
最後に、ALOX12阻害の治療応用について検証するために、卵白アルブミンをマウスに投与してアレルギー性鼻炎の症状を誘発したあとに、ALOX12阻害剤の投与を開始。その結果、この処置においてもアレルギー性鼻炎の症状とそれに伴う好酸球の鼻粘膜への浸潤等が抑えられることが明らかになった。
12-HETE産生抑制が新たな治療法となる可能性
今回の研究結果により、アレルギー性鼻炎を発症すると鼻粘膜に浸潤する好酸球から12-HETEが産生され、これがT細胞の分化を促進することで鼻炎症状を悪化させること、この産生を抑えれば、遅発症状が抑制されてアレルギー症状が緩和されることが、マウスモデルを用いた検討で明らかになった。12-HETEは、花粉症などのアレルギー性鼻炎を重症化させる原因物質である可能性があり、この産生抑制は画期的な治療法になる可能性がある、と研究グループは述べている。
▼関連リンク
・東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部 研究成果