うつ・不安定など「精神的フレイル」の簡易的な診断方法が切望されていた
京都産業大学は10月28日、高齢者のうつ・不安症を評価するために有用なバイオマーカーを明らかにしたと発表した。この研究は、同大生命科学部 加藤啓子教授らの研究グループと、弘前大学の井原一成教授、東京都健康長寿医療センターの河合恒研究員らの共同研究によるもの。研究成果は、「Discover Mental Health」オンライン版に掲載されている。
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高齢者は、うつ病や不安障害の罹患率が高く、フレイルの進行リスクを高める。フレイルとは「健康と要介護の中間の状態」を示し、精神的フレイル(うつ・不安症)、身体的フレイル(サルコペニア)、社会的フレイル(ひきこもり)の3因子が挙げられる。これら3つの因子を早期発見し、適切な介入を行うことで要介護状態への移行を阻止し、自立した健康な生活に戻すことができると期待されている。3つの因子の中でも、精神的フレイルは特に診断が難しく、簡易的な診断方法が切望されていた。
うつ病・不安症の高齢者の尿から同定したバイオマーカー、3種が大うつ病判定に有効
研究グループは今回、2015年度の「お達者検診」で、東京都板橋区内に在住の女性(374人)と男性(265人)を対象にコホート調査を実施(年齢66~88歳)した際に提供された尿を用いて研究を行った。なお同研究は、フレイルの進行には加齢に伴う代謝変化もリスクになると考え、最終代謝産物である尿に着目し、尿中揮発性有機化合物(VOCs)を解析したパイロット研究だ。
まず、精神科医が診断した9人の大うつ病および/または不安症罹患者と対照となる高齢者から提供されたVOCsを分析したところ、157種の揮発性有機化合物を検出し、その中から特に5種のうつ・不安症バイオマーカーを同定した。これを、受信者動作特性曲線(Receiver Operating Characteristic:ROC)を用いて解析した結果、5種全ての正確さが70%以上であり、感度も著しく高いものであると判明した。
5種のうち3種の結合インデックス(SPSSを用いた線形回帰解析により得た「標準化されていない予測値」)を独立変数に、GRID ハミルトンうつ病評価尺度21項目(GRID-HAMD)を従属変数に、グラフを作成したところ、Pearson r値が0.84(p=0.047)となり、高い相関を示した。この高い相関性は、3種の揮発性バイオマーカーが、大うつ病の判定に有効であることを示す。
うつ・不安症のヒトとマウスの代謝経路類似、モデルマウスが薬理・評価試験に有用
研究グループはヒトのVOCsに先駆け、うつ・不安症モデルマウスと側頭葉てんかんモデルマウスのバイオマーカー群を発見し報告している。そこで、今回のヒトの結果をマウスモデルの結果と比較したところ、うつ・不安症バイオマーカーは、ヒトとマウスで類似の代謝経路を通り、尿における最終代謝産物となっていることが判明した。
このヒトとマウスの代謝経路の類似性は、これらのマウスモデルがヒト食品の機能性評価や薬理試験の評価試験に有用であることを示しているという。
ヒトの尿とマウスを併用し、食品の機能性評価・創薬研究への貢献目指す
今回の研究により、高齢者のうつ・不安症を検出する新規揮発性尿中バイオマーカーが発見された。今後は非侵襲性の簡便な尿検査キットの開発を目指し、より多くの高齢者に試してもらえるよう、工夫を進めていく必要がある。また、ヒトとマウスで類似の代謝経路を通り、尿中に排泄されるバイオマーカーの起源や体内動態、さらには、うつ・不安症の発症と関連する生理学的な意味の解明が、今後の課題と考えられる。
なお、同研究では、揮発性尿中バイオマーカーを、検査の対象となった高齢者の食事への嗜好性との関連性も検討しているという。例えば油脂摂取頻度の高い高齢者と緑黄色野菜や海藻の摂取頻度の高いうつ・不安症の高齢者では結果が異なる可能性があり、食事の嗜好性については、情動による影響と生理学的反応の両方向から考察する必要性があるとしている。
「このような一連の課題を解決するために、高齢者の尿を対象としながら、マウスモデルを用いた実験系を併用することで、食品の機能性評価、創薬研究にも貢献できると考えている」と、研究グループは述べている。
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・京都産業大学 プレスリリース