赤ビーツ含有の硝酸塩は体内で血管拡張作用のあるNOに変化
北海道大学は10月31日、赤ビーツ飲料の摂取により、冷えた手指が早く温まることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院工学研究院の若林斉准教授、同大学大学院農学研究院の崎浜靖子講師、橋本誠教授ら、同大学ロバスト農林水産工学国際連携研究教育拠点の研究グループによるもの。研究成果は、「European Journal of Applied Physiology」に掲載されている。
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北海道大学大学院工学研究院の環境人間工学研究室では、個人差に応じて温熱的快適性を向上させる方法の一つとして、食品成分などを活用した体温調節機能の活性化に関する研究に取り組んでいる。例えば、オフィス環境における執務者の温熱的快適性や作業効率の確保のため、空調機器などによる推奨温熱環境の維持が求められている。しかし、快適と感じる温熱環境は体格等の個人特性によっても大きく異なり、画一的な空調管理には限界がある。特に、冷え性の人は手先や足先の温度低下を不快に感じるため、個別の対策が求められる。
近年、含有成分による血圧降下作用や抗酸化機能を持つスーパーフードとして、赤ビーツ(ビートルート)が注目され、北海道地域においても栽培が進められている。赤ビーツに含まれる硝酸塩を摂取すると、体内でNOに変化し、NOの血管拡張作用によって血圧を下げることや血流を促進することが知られている。
赤ビーツ摂取で冷えを解消できる?健康な成人男性20人で比較実験
研究グループは今回、手指などの末梢部の冷えの改善に赤ビーツによる血流促進作用を活用できるのではないかと考え、ヒト対象実験により検証した。健康な成人男性20人を対象に、水または赤ビーツ飲料を摂取する2条件の実験をランダムな順序で実施。各対象者は、水または赤ビーツ飲料を140mL摂取してから120分間座位安静にし、その後8℃の水に手を30分間浸して手指を冷却した。冷却終了後、室温27℃の環境で20分間の回復時間をとった。実験中に指先の皮膚血流や皮膚温度を測定し、各指標の経時変化を両条件で比較した他、回復区間における皮膚温の回復速度(℃/分)を求めて条件間の比較を行った。
冷え性傾向「強」ほど、赤ビーツによる皮膚温回復作用が顕著
手部冷却に伴う各対象者における指先皮膚温の経時変化の観察では、水を摂取した条件で回復の遅い人が赤ビーツを摂取。その結果、回復が促進される様子が見られた。赤ビーツによる皮膚温回復作用には個人差が見られ、水条件で皮膚温回復の遅い人(冷え性傾向の強い人)ほど赤ビーツ摂取による皮膚温回復促進が顕著に示されたという。回復1分から20分までの皮膚温回復速度は、水条件に比べて、赤ビーツ条件において回復が速まる結果が示された。
強い寒冷刺激では、赤ビーツ摂取による末梢部の血管拡張作用は生じない
また、赤ビーツ摂取により冷却後の回復区間における指先の皮膚血流の増加が促進されることが明らかになった。一方で、冷却中の皮膚血流や皮膚温には条件間の差が見られなかったことから、強い寒冷刺激を受けている時には、赤ビーツの摂取による末梢部の血管拡張作用は生じないと考えられた。今後、日常的に生じるような軽度の寒冷環境において、赤ビーツによる血流促進作用や末梢部の冷えの緩和が見られるか検証する必要があるとしている。
赤ビーツによる血流促進作用、末梢部の冷え改善の可能性
同研究の結果、赤ビーツによる血流促進作用が末梢部の冷えの改善に資することが明らかになった。オフィス環境や生活環境で冷えを感じている人の温熱的快適性向上の他、寒冷地での屋外作業、ウインタースポーツを行った際などに、赤ビーツの食品機能性を活用できる可能性があり、今後の実践研究を通じた実用化と普及に期待が持たれる、と研究グループは述べている。
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・北海道大学 プレスリリース