「がん患者が機能予後を知りたいと思っているか」を調査
筑波大学は10月28日、国内のがん患者132人を対象に、機能予後を知ることに関する意向や関連する要因などを調査し、その結果を発表した。この研究は、同大医学医療系の濵野淳講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Annals of Palliative Medicine」に掲載されている。
がん患者にとって、予後情報は、治療方針や日常生活に関するさまざまな意思決定に影響を与える極めて重要な情報だ。これまで、がん患者や家族が残された時間(生命予後)を知りたいと思っているか、についての研究が世界的に行われており、その中で、がん患者は、亡くなる前に他人の負担にならないことが大切と考えていることや、がん患者の最期に希望することは、旅行に行くことや家族と過ごすことである、ということがわかってきた。そのため近年は、生命予後だけでなく、いつまで歩けるか、いつまで食事がとれるか、といった身体機能の予後(機能予後)も、がん患者や家族にとって重要な情報であると考えられるようになっている。しかし、実際に、がん患者が機能予後を知りたいと思っているか、についての調査は世界的にも行われていなかった。
国内のがん患者132人対象、運動予後・会話予後などを知りたいかを問う
研究グループは2022 年 2 月、国内のがん患者を対象に無記名のインターネット調査を実施し、機能予後を知ることに関する意向や関連する要因などを調査した。対象者は132人、そのうち 67人(50.8%)が男性、43人(32.6%)が消化器がん、23人(17.4%)が泌尿器がん、20人(15.2%)が婦人科がんの患者だった。
調査内容は、がん患者が知っておきたいと考えている予後情報や関連する要因など。具体的には、1)私は、「いつまで生きられるか」を知っておきたい(生命予後)、2)私は、「いつまで自由に動けるか(旅行など)」を知っておきたい(運動予後)、3)私は、「いつまで本を読むなど複雑な思考ができるか」を知っておきたい(思考予後)、4)私は、「いつまでおいしく食事ができるか」を知っておきたい(食事予後)、5)私は、「いつまでちゃんと会話ができるか」を知っておきたい(会話予後)に対し、参加者は、それぞれ「とてもそう思う」から「全くそう思わない」の6段階で回答した。
生命予後よりも機能予後を知りたい傾向、「身近な人をがんで亡くした経験」との関連も
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
調査の結果、生命予後に対して、「とてもそう思う」「そう思う」と回答したのは35人(26.6%)だった。機能予後に対しては、「とてもそう思う」「そう思う」と回答した患者が多かったのは、会話予後:62人(46.9%)、食事予後:57人(43.1%)、運動予後:56人(42.4%)だった。また、身近な人をがんで亡くした経験があることが、生命予後、運動予後、会話予後を知っておきたいことと関連することがわかった。
これらのことから、がん患者は「いつまで日常生活や仕事ができるか」を考えるために、生命予後よりも機能予後を知りたいと考え、身近にがんで亡くなった方がいる場合、より予後情報を知りたいと考えている可能性が示された。
患者本人の知りたい程度に合わせた伝え方の検討が必要
今回の研究は、生命予後以外に、がん患者が知っておきたいと考えている予後情報について分析した初めての調査だ。「今後は、がん患者の生命予後だけでなく、機能予後を予測する方法や、本人の知りたい程度に合わせた伝え方を検討することが必要と考えられる」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・筑波大学 TSUKUBA JOURNAL