INESは、2021年5月に薬価制度改革案を公表した。経済成長に合わせ市場成長を担保し、市場成長に合わせた薬価改定を行うマクロ的アプローチと、イノベーティブな新薬を適切に評価し、財源配分していくミクロ的アプローチの両立を目指している。今後10年間の平均成長率予測をもとに、少なくともGDPと同じ成長率まで医薬品成長率を担保することで、総薬剤費規模を引き上げるとの考え方だ。
朝井氏は「医薬品予算にマクロ経済の枠組みを入れ、薬剤費に上限をかけるよう主張しているように見え、国内外で批判があることを承知している」とした上で、「イノベーションを評価する仕組みと財政面の調和をどう考えていただけるか」と趣旨を説明した。
これに対して、香取照幸構成員(上智大学総合人間学部社会福祉学科教授)は「医薬品総額をGDPの範囲内で収められるのかが疑問。この提案ではマクロとミクロという調整メカニズムと成長メカニズムが機能しないのではないか」との見解を述べた。さらに、「日本のGDP成長率は低く、仮にGDP成長率まで医薬品市場の成長率を認めるとしても世界市場から比べれば明らかに見劣りがする」と疑問を呈した。
INESの梅田一郎理事長は、「日本以外の先進国は経済成長以上に医療費が伸びているが、日本は経済成長率を下回って医薬品市場はゼロからマイナスになろうとしている。ここから先の見通しも非常に厳しい状況にある」と述べ、医療費抑制策の中で現状を打開するアイデアが必要と指摘。「イノベーティブな製品が価格として評価され、その製品が成長し、成功した企業が成長していく。財政当局として薬剤費がどこまで大きくなるか一定の予見性が得られるのであれば、議論できると思う」と説明した。
その上で、「税や保険料をどれだけ入れられるかとの議論はあるが、医療や医薬品にどれだけお金を使いたいかは国民の選択で、それがGDPを上回ってもいいのではないか」と述べた。
新薬の算定制度については、薬価流通政策研究会・くすり未来塾が類似薬効比較方式、原価計算方式に続く企業届出価格承認制度を提案している。
武田俊彦共同代表は、「少なくとも価格の根拠は企業に説明する責任を負わせた方がいい」と主張。「企業も国際的な平均価格があるため、合理性がないような価格をつけることはない。リアルワールドデータで再評価すればいい」との考えを示した。
企業数・品目数が多すぎると指摘される後発品メーカーの産業構造については、「再編が進んで企業が大規模化するのは望ましいが、(現行の仕組みであれば)後発品の薬価は下がり、新製品を作っても利益は上がらない。企業が製品価格をつけられないと再編は進まない」との考えを示した。