長らく見つからなかった症例を確認、世界初
大阪大学は10月20日、ラミニンα5鎖遺伝子ヘテロ変異を有する家族性巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)の症例を世界で初めて発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の貝森淳哉寄附講座准教授(腎疾患臓器連関制御学)、猪阪善隆教授(腎臓内科学)、東京薬科大学薬学部の吉川大和准教授(病態生化学)らの研究グループによるもの。研究成果は、「JCI Insight」に掲載されている。
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人工透析が必要な患者の数は年々増加の一途をたどり、国民の医療費を圧迫している。しかし、透析につながる腎疾患の病態に関しては良くわかっていないことも多く、診断が出来ない例も多くある。腎臓は、糸球体と呼ばれるフィルターを用いて、血液をろ過して尿を作る。糸球体の重要な構成要素のひとつが、糸球体基底膜だ。糸球体基底膜は、糸球体というフィルターの物理的な構成要素としてだけでなく、隣接する細胞の足場の働きもしている。特に、ラミニンα5鎖は細胞に足場を与える重要な役割を担っており、マウスを用いた基礎研究により糸球体の働きに必須な分子であることが証明されてきた。
しかし、これまで実際にラミニンα5鎖が原因となる遺伝性疾患の例は数少なく、発生に異常がある小児のホモ変異症例(対立遺伝子の両方に変異がある場合)に限られていた。成人では、FSGSを伴う腎症に、ラミニンα5鎖遺伝子のヘテロ変異(対立遺伝子の一方に変異がある場合)を発見したという報告があった。しかし、最近の研究により、報告されたラミニンα5鎖遺伝子のヘテロ変異が腎疾患を引き起こさないのではないかとも言われている。このため、ラミニンα5鎖遺伝子のヘテロ変異を原因とする遺伝性腎疾患が、人間の病気として存在するかは明らかになっていなかった。
ラミニンα5鎖遺伝子の新規ヘテロ変異p.V3687Mを発見、病態再現マウスも樹立
今回、研究グループは、実際に診察を行った、FSGSを伴う家族性腎疾患の患者の協力を得て、家族3名のゲノム遺伝子を用いて、全エクソームシークエンス解析を実施。ラミニンα5鎖遺伝子の新規ヘテロ変異p.V3687Mを発見した。この遺伝子変異が本当にこの疾患を引き起こすかを証明するため、同じ遺伝子変異をもつ、遺伝子改変マウスを作製し、病態を解析。その結果、生後72週目で尿タンパク陽性、FSGS病変、肺気腫の変化および気管支の変形を認め、マウスでも同じ遺伝子変異がヒトと同様の疾患を引き起こすことを示した。
また、この遺伝子改変マウスの病態を詳しく解析した結果、変異をもつラミニンα5鎖タンパク質の基底膜への分泌が減少し、細胞の接着の低下が、本疾患の原因になっていると示唆された。また、細胞接着と関係するビンキュリンタンパク質の病変での増加が認められ、このタンパク質の増加が同疾患のバイオマーカーとして診断に応用できる可能性が示唆された。
細胞接着の異常が関与、ビンキュリンがバイオマーカー候補に
今回の研究成果により、ラミニンα5鎖遺伝子のヘテロ変異を原因とするヒトの腎疾患が存在したこと、FSGSの疾患メカニズムに細胞接着の異常が関与すること、ビンキュリンタンパク質が同疾患のバイオマーカーとして診断に応用できる可能性が示唆された。新たな家族性腎疾患の診断および治療法の開発が期待される、と研究グループは述べている。
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・大阪大学 ResOU