オラパリブ療法による貧血の発症率・重症率は高いが高リスク患者は不明だった
慶應義塾大学は10月25日、治療開始前の赤血球パラメータ(赤血球数、ヘマトクリットあるいはヘモグロビン)およびBRCA1/2変異がオラパリブ療法による重篤な貧血発症を事前に察知できることを発見したと発表した。この研究は、同大大学院薬学研究科博士課程3年田代亮太大学院生、薬学部の河添仁准教授、中村智徳教授、国立がん研究センター中央病院、国立がん研究センター東病院、国立国際医療研究センター病院の研究グループによるもの。研究成果は、「Frontiers in Oncolog」にオンライン掲載されている。
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現在、国民の2人に1人はがんに罹患し、3人に1人はがんで死亡する時代となった。中でも乳がんは日本人女性9人に1人が罹患する。近年、非常に優れた抗がん薬が次々に開発されているが、副作用のない抗がん薬はいまだ存在しない。一般的に、がん化学療法はリスクとベネフィット(治療効果と副作用など)のバランスが重要である。副作用を可能な限り軽減し、治療効果を高めることにより、がん化学療法を受ける患者の得られるベネフィットはより増大する。
オラパリブ療法は乳がん、卵巣がんを始めとしたさまざまながんにおける標準治療である。オラパリブ療法による副作用の一つに貧血があるが、貧血の発症率および重症率は高く、どんな患者に起こりやすいのかということがわかっていない。そのため、「高リスク患者」の早期発見ができれば、治療にあたって非常に重要な知見となる。今回の研究では、オラパリブによる重篤な貧血発症と、オラパリブ療法開始前の赤血球パラメータおよびBRCA1/2変異が相関するのではないかという仮説を検証した。
オラパリブ療法開始前のRBC・Hb・HtとBRCA1/2変異陽性が重篤な貧血発症と相関
試験デザインは、多施設共同後方視的観察研究とした。2018年4月~2020年12月の期間に、国立がん研究センター中央病院、国立がん研究センター東病院および国立国際医療研究センター病院の3施設において、乳がんおよび卵巣がん治療として、オラパリブ単剤療法を1回以上行った患者を対象に診療録を後ろ向きに調査した。対象患者113名のうち、37名(32.7%)がGrade3以上の重篤な貧血を発症した。次に、重篤な貧血発症とオラパリブ療法開始前の赤血球パラメータの関連性を検証した。受信者動作特性曲線により、オラパリブ療法開始前の赤血球数、ヘマトクリットおよびヘモグロビンのカットオフ値はそれぞれ3.3×106個/µL、35%および11.6g/dLとなった。そこで次に、ロジスティック回帰分析を行った結果、オラパリブ療法開始前の赤血球数3.3×106個/µL未満、ヘマトクリット35%未満あるいはヘモグロビン11.6g/dL未満は重篤な貧血発症と有意に相関した。また、BRCA1/2変異陽性も重篤な貧血発症と有意に相関した。
今回の研究から、オラパリブ開始前の赤血球パラメータおよびBRCA1/2変異陽性が重篤な貧血発症と相関することがわかった。立てた仮説が支持され、オラパリブ開始前の赤血球パラメータおよびBRCA1/2変異陽性がオラパリブによる重篤な貧血発症を予測できることが示唆された。「研究成果は、オラパリブ療法による重篤な貧血を事前に察知できる可能性を示唆するものであり、『高リスク患者』の早期発見とその治療マネジメントにつながるものと考えている」と、研究グループは述べている。
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