白血球数と心房細動リスク増加との関連は?吹田研究を用い喫煙状況から結果を層別化
国立循環器病研究センターは10月25日、都市部地域住民を対象とした吹田研究を用いて、白血球数が高いと心房細動罹患リスクが高いことを明らかにしたと発表した。この研究は、同研究センター健診部の小久保喜弘特任部長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Circulation Journal」に掲載されている。
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高齢者での心房細動の増加は、公衆衛生上の大きな課題となっている。世界人口に相当する人が心房細動を有しており、過去20年間で33%も増加している。さらに、2050年には60%以上増加する可能性があることも推計されている。心房細動は、脳卒中、認知症、心不全、および心血管疾患死亡率の主要な危険因子だ。しかし、心房細動は避けられないものではなく、リスク要因を管理することで、ある程度防ぐことができる。
炎症が心房細動の発症における重要なプロセスである可能性があり、この炎症の過程は潜在的に修正可能であることが示唆されている。「白血球数」は、広く測定されている炎症バイオマーカーだ。多くの研究から、白血球数の増加が、心筋梗塞、脳卒中、および心血管疾患のリスクの増加と関連している可能性があることが報告されている。心房細動についても、米国のフラミンガム研究とノルウェーのTromsø研究で、白血球数と心房細動の罹患との間に正の関連性が示されたが、米国のARIC研究では有意な関連性が示されなかった。
アジア人は欧米人と比較して喫煙率が高く、また、心房細動の罹患率が低い特徴があるが、白血球数と心房細動リスクとの関連性に対する喫煙の影響についてはこれまで発表されていなかった。今回、白血球数が心房細動リスクの増加と関連している可能性があり、この関連は喫煙者の間でより強いという仮説を立て、吹田研究を用いて白血球数が心房細動リスクにどのように影響を与えるかを分析し、喫煙状況によって結果を層別化した。
白血球数増加に伴い心房細動罹患リスク増大、男性<女性、非喫煙<喫煙
吹田研究参加者である30~84歳の都市部一般住民のうち、ベースライン調査時に心房細動の既往歴のない6,884人(男性3,238人、女性3,646人)を対象に、心房細動の新規罹患を追跡した。その結果、平均14.6年の追跡期間中に312人が心房細動と新たに診断された。
Cox比例ハザードモデルを用いて、白血球数の値の低い方から20%ずつ分け(五分位)、心房細動の罹患率のハザード比(HR、相対危険度)と95%信頼区間(95% CI)を計算した。白血球数の最も少ない群(下位20%、第1五分位)を基準に、最も多い群(上位20%、第5五分位)での心房細動罹患リスクは、ハザード比(95%信頼区間)が1.57(1.07, 2.29)で、男女に分けると、女性では2.16(1.10, 4.26)、男性では1.55(0.99, 2.44)(年齢における白血球数と心房細動罹患に関する交互作用p=0.07)、喫煙の有無別に分けると、現在喫煙者では4.66(1.89, 11.50)、非喫煙者では1.61(1.01, 2.57)だった。(交互作用p=0.20)。
白血球数が1,000/μL増加するごとに、心房細動罹患リスクは集団全体で、12%(非喫煙者で10%、喫煙者で15%)、男性で9%(非喫煙者9%、喫煙者10%)、女性で20%(非喫煙者13%、喫煙者32%)増大していた。
フラミンガム研究では936人を調査し、白血球数の1標準偏差増加あたりの心房細動罹患のハザード比は2.16(95%信頼区間,1.07, 4.35)だった。Tromsø研究では、白血球数の下位25%群と上位25%群を比較して、心房細動の罹患リスクの増加と関連していた(ハザード比1.44; 95%信頼区間,1.11, 1.88)。今回の研究では、これらの研究と類似の結果が得られた。ARIC研究では、白血球数の1標準偏差増加あたりの心房細動罹患のハザード比は1.09(95%信頼区間,1.04, 1.15)だったが、この関連性は、循環器病の発生で調整すると関連性が消えたという。
男性<女性は、日本の別の研究でも示されている
炎症が心房細動のリスクを高めるメカニズムは、まだよくわかっていないが、心房細動を有する患者における炎症性バイオマーカーの増加は、電気的および構造的な心房のリモデリングに寄与する心房の炎症を示している可能性もある。このような着眼点から、ステロイドなどの抗炎症特性を持つ薬物は、心房細動の潜在的な治療薬として、および術後の心房細動および心房細動再発に対する化学予防薬として研究されてきた。
また、今回注目すべきことは、「白血球数と心房細動リスクとの関連性は、男性よりも女性の方が顕著」という点だ。同様の性差は、NIPPON DATA90の6,756人の日本人の地域住民を対象とした追跡研究でも示されており、女性の白血球数が循環器病死亡率と関連していたという。
心房細動罹患の予測ツールに白血球数高値を加え、高値の人に対し禁煙の指導を
吹田研究ではこれまで、心房細動罹患の予測ツールを開発してきた。同ツールは健診で評価できるような古典的リスク因子を用いて開発されているが、今回の結果を受け、今後は評価すべき項目に白血球数高値を加えていくことで、心房細動発症予防のために、どのような生活習慣改善を勧めれば良いのか、具体的には「白血球数高値の人で喫煙をしている場合には禁煙をしてもらう必要がある」といったことを提示できるようになるとしている。
心房細動の予防に資する適切な指導を行うためには、さらなる研究が必要
同研究は、アジアで初めて白血球数と心房細動罹患リスクとの関連性を調査した研究であり、都市部の日本人を代表する無作為に選択された集団について、2年ごとの頻繁なフォローアップを実施する前向きデザインといった強みを備えている。
ただし、いくつかの制限も考慮する必要がある。第1に、心房細動の発生数が限られているため、層別分析が難しいことがあげられる。アジア人は白人よりも心房細動の発生率が低いということもある。第2に、今回の研究では白血球数分画についてのデータがなかった。福島健康管理調査の横断的研究では、単球数および好中球/リンパ球比の増加とともに心房細動有病率の増加が示されたが、好中球、リンパ球、好酸球数の増加は示されなかった。ARIC研究では、好中球数の増加に伴う心房細動リスクの増加が説明された。心房細動の予防に資する、より適切な指導を行うためには、今後さらなる研究が必要と考える、と研究グループは述べている。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース