ワクチン接種後のSLE発症やSLE症状悪化の報告、実態は?
京都大学は10月25日、指定難病である全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)の疾患活動性ならびに再燃に対するコロナワクチン影響について調査し、その結果を発表した。この研究は、同大医学研究科の吉田常恭博士課程学生、医学部附属病院の辻英輝助教、医学研究科の大西輝特定講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Lupus Science & Medicine」に掲載されている。
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SLEは女性に多く発症し、皮膚、粘膜、筋骨格系、腎臓、神経など全身の多臓器に渡って障害を起こす難治性の疾患。2019年にSLEとして難病の申請をしている人は、6万1,835人とされているが、実際には申請していない人を含めると、その2倍の人数がこの疾患に罹患していると推定されている。SLEで特に女性が多く罹患する要因は現在はっきりとわかっていない。考えられる要因としては、遺伝的な要因に加えて、感染症、薬物などの環境要因が加わることで体内の免疫細胞が暴走を起こして自分を攻撃するようになることが想定されている。
昨今では世界的に流行する新型コロナウイルス感染症のワクチンを接種した後にSLEが発症する症例や、もともと罹っていたSLEの症状が悪化する症例報告がしばしば見られる。コロナワクチン接種後にもともと罹っているSLEの症状が悪化することはSLE患者にとっては大きな懸念材料であり、そのことがコロナワクチン接種をためらうことにつながることも指摘されている。しかし、コロナワクチン接種とSLE症状が悪化する事に関しては明確な因果関係があるのか、コロナワクチン接種後にたまたまSLEが悪化しただけの前後関係なのかは、不明瞭なままだった。
研究グループは今回、コロナワクチンを接種したSLE患者と同じ時期に1対1でマッチングをしたワクチンを接種していないSLE患者さんの疾患活動性と再燃リスクについて、国から推奨されているコロナワクチン2回目接種後から経時的に観察した時に、ワクチン接種によってSLEの疾患活動性が本当に悪化するのか、そして、再燃リスクが上がるのかを明らかにすることを目的に研究を実施した。
コロナワクチン2回目接種済のSLE患者と、同時期に非接種だったSLE患者を対象に調査
書面による同意が得られた同大医学部附属病院に通院しているSLE患者150人のうち、74人の新型コロナウイルスワクチン接種群と、同時期にワクチンを接種していないSLE患者群(非接種群)74人を、1対1でマッチングさせ、コロナワクチン2回目接種30日後、60日後、90日後にその疾患活動性と再燃リスクを経時的に比較検討した。疾患活動性については、医師による客観的な指標(SLEDAI-2K)に加えて、患者による主観的な指標(SSC-J)も用いて調査した。
ワクチン接種群、非接種群と比較して疾患活動性の指標値に有意差なし
その結果、コロナワクチン2回目接種30日後、60日後、90日後のいずれの時点においても、ワクチン接種群と非接種群を比較して、医師による主観的、患者による客観的な疾患活動性指標の数値に有意差がないことがわかった。これは患者群を年齢、性別、ワクチン接種前の疾患活動性、免疫抑制薬や生物学的製剤の使用の有無によって調整をしても同じ結果だった。
続いて、疾患活動性がワクチン接種前に高い患者に限定して、同じ疾患活動性の指標がワクチン接種群でワクチン接種非接種群と比較して有意に高いかを調査した。これはもともとのSLEの疾患活動性が高い場合の方が、ワクチン接種によってSLEの疾患活動性が特に上昇しやすいかもしれないと想定されたためである。しかし、疾患活動性がもともと高い患者でもワクチン接種群と非接種群を比較して30日後、60日後、90日後のSLEの主観的、客観的な疾患活動性指標の推定値に有意な差はない可能性が示唆された。
再燃リスクの上昇も見られず、免疫抑制薬等の使用の有無の調整後も同様
さらに、ワクチン接種によるSLEの再燃リスクについて調査した。ワクチン接種群と非接種群を比較して、30日後、60日後、90日後の再燃のリスクに有意差は認められなかった。これは年齢、性別、免疫抑制薬や生物学的製剤の使用の有無によって調整をしても同じ結果だった。
SLE患者のコロナワクチン接種の指針作成に貢献
今回の研究により、コロナワクチンを2回接種しても、接種90日後まで、SLEの疾患活動性や再燃リスクは接種していない患者と比べて有意に上昇しないことがわかった。この結果は、コロナワクチン接種を躊躇しているSLE患者にとって大きな福音となる可能性がある。「研究成果を踏まえ、今後、より多くの症例を蓄積したり、3回目、4回目接種後までの疾患活動性や再燃リスクを調査したりすることで、SLE患者のコロナワクチン接種の指針作成に貢献できることが期待される」と、研究グループは述べている。
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