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心筋脂肪酸代謝の非侵襲的な蛍光イメージングに成功、診断応用に期待-理研ほか

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2022年10月26日 AM11:22

放射線を用いず心筋の長鎖脂肪酸代謝を非侵襲にイメージング

(理研)は10月21日、心筋における脂肪酸代謝を光で可視化するための近赤外蛍光プローブの開発に成功したと発表した。この研究は、理研生命機能科学研究センターナノバイオプローブ研究チームの神隆チームリーダー、坪井節子テクニカルスタッフ、北海道大学大学院先端生命科学研究院化学生物学研究室の門出健次教授、村井勇太助教、マハデバ M. M. スワミー助教、大阪大学大学院医学系研究科中性脂肪学共同研究講座の平野賢一特任教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Analyst」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

心臓に生じた障害は生命の危機に直結するため、心臓機能の状態を正確に把握することが臨床では非常に重要である。正常な心臓の筋肉()はエネルギー源として主に脂肪酸(長鎖脂肪酸)を利用しているが、虚血状態(血液が十分に供給されない状態)の心筋は脂肪酸に代わってブドウ糖を利用するようになる。従って、心筋における長鎖脂肪酸代謝を非侵襲的にイメージングすることは、心臓機能の評価に不可欠であり、健康あるいは病気の心臓の状態の理解につながる。

心筋における長鎖脂肪酸代謝を非侵襲的にイメージングする手法として、放射性ヨウ素(123I)で標識したヨードフェニル-ペンタデカン酸などの長鎖脂肪酸類似体(123I-BMIPP)を利用したSPECT(単一光子放出コンピュータ断層撮影)が広く使用されている。SPECTは高感度な心筋代謝イメージングを可能にするが、放射線を検出し画像化するための大掛かりな診断機器や、放射性物質による標識合成が必要であるなど、コスト面などで課題がある。一方、放射線を用いない非侵襲イメージング法として、赤っぽい光が体を通りやすいことを利用し、可視光の赤い光よりも波長の長い波長700~900ナノメートル(nm、1nmは10億分の1メートル)の近赤外光を用いるイメージングがある。今回の研究では、長鎖脂肪酸に近赤外蛍光を発する色素を結合させて、心筋における脂肪酸代謝の近赤外生体蛍光イメージング技術の開発を試みた。

3ステップで合成でき、心筋に長くとどまる近赤外蛍光標識Alexa680-BMPPを開発

近赤外蛍光を発する長鎖脂肪酸を設計するにあたっては、心筋代謝イメージングのためのSPECTプローブとして利用されているBMIPPを基本骨格とした。近赤外蛍光標識には、波長700nm以上で蛍光発光するAlexa680蛍光色素を用いた。この2種の分子を材料として、放射性ヨウ素の代わりにAlexa680を持つ近赤外蛍光を発する長鎖脂肪酸「Alexa680-BMPP」を合成した。分岐した長鎖脂肪酸であるBMIPPは、β酸化が阻害されるため代謝されにくく、心筋に長くとどまる性質がある。従って、BMIPPを基本骨格とする近赤外蛍光標識Alexa680-BMPPも、BMIPP同様に心筋において脂肪酸代謝のイメージングに利用可能なものと期待される。またAlexa680-BMPPは出発化合物BMIPPから3ステップで合成でき、製造も簡単である。

高い蛍光輝度とコントロールより有意に心筋細胞へ取り込まれることを確認

開発したAlexa680-BMPPの分子量は1,231で、分子構造は高分解能質量分析、アガロースゲル電気泳動および蛍光スペクトルの測定から確認できた。蛍光の最大ピークは近赤外波長領域にあり、当てた光(励起光)のエネルギーが蛍光のエネルギーに使われる変換効率(量子収率)は39%だった。これは、一般的な近赤外蛍光色素であるインドシアニングリーンの量子収率が1%程度であるのに比べて、高い蛍光輝度を示している。

Alexa680-BMPPが長鎖脂肪酸として機能するかどうかを確認するため、培養下でのヒト心筋細胞への取り込みを調べた。その結果、Alexa680-BMPPは、コントロールの色素(脂肪酸と結合していないAlexa680)に比べ有意に心筋細胞に取り込まれることがわかった。このことから、Alexa680-BMPPが蛍光性の長鎖脂肪酸として機能することが明らかになった。

注入後30分でマウスの心臓部位の近赤外蛍光強度は最大に達し徐々に減少

次に、生きたマウスの心筋で脂肪酸代謝が蛍光イメージングできるかどうかを確かめるため、ヘアレスマウス(4週齢、Hos:HR-1)にAlexa680-BMPPを尾静脈から注入し、近赤外蛍光を観測した。マウスの心臓部位の近赤外蛍光強度はAlexa680-BMPP注入後30分で最大に達し、時間とともにその蛍光強度は徐々に減少した。コントロールとして同量のAlexa680を尾静脈投与したが、蛍光はほとんど観測されなかった。また、蛍光色素注入後に切除した心臓組織の蛍光イメージング画像からは、Alexa680-BMPPがAlexa680に比べ5〜6倍量心臓に取り込まれていることがわかった。これらの実験結果は、Alexa680-BMPPが蛍光性の長鎖脂肪酸として機能し、マウス心筋に取り込まれたことを示している。

絶食により心臓への取り込みが増加

次に、Alexa680-BMPPの心筋への取り込みが、心筋の生理状態によって変化するか調べた。マウスを長期間絶食させると、心臓への脂肪酸の取り込みが増強されることが一般的に知られている。そこで、24時間絶食させたマウスと、比較のため通常の飼料で飼育したマウスの心臓組織の近赤外蛍光イメージングを行った。その結果、生体蛍光イメージング、および分離切除した心臓の蛍光画像のいずれにおいても、Alexa680-BMPPの心臓への取り込みは、絶食させたマウスの方が給餌されたマウスよりも有意に大きいことが観測された。以上の結果から、蛍光性の長鎖脂肪酸であるAlexa680-BMPPは心筋の生理的状態を観測できる蛍光プローブとして機能することが示された。

研究グループは今後の期待として、「これまで、心筋の脂肪酸代謝を非侵襲的に計測するための蛍光性の長鎖脂肪酸は開発されていなかった。今回、世界に先駆けて合成に成功した近赤外蛍光を発する長鎖脂肪酸(Alexa680-BMPP)は、心筋における脂肪酸代謝の蛍光イメージングを可能にする。これにより、SPECTなどの放射線イメージングでしか検査できなかった心筋の脂肪酸代謝を、より簡便に画像化できるようになる。この近赤外蛍光を用いた心筋イメージング技術は、さまざまな心臓疾患研究への応用が期待できる」と述べている。

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