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アルツハイマー型認知症、オキシトシンが認知機能低下改善に有用な可能性-東京理科大

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2022年10月25日 AM11:05

マウスの神経活性障害を回復するオキシトシン、その認知行動特性への影響は不明

東京理科大学は10月24日、アミロイドベータ(Aβ)投与によって作製されたアルツハイマー型認知症モデルマウスにおいて、オキシトシンを脳室内に投与することにより、あるいは脳内への移行性を向上させた「誘導体化オキシトシン」を経鼻投与することにより、マウスの認知行動障害が改善されることを明らかにししたと発表した。この研究は、同大薬学部薬学科の岡淳一郎名誉教授、斎藤顕宜教授、生命創薬科学科の山下親正教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Neuropsychopharmacology Reports」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

アルツハイマー型認知症は、高齢者における最も一般的な認知症であり、認知機能の低下によって日常生活全般に支障をきたす疾患である。その発症原因は、Aβと呼ばれるタンパク質が脳内に蓄積することで脳神経が障害され、その結果脳の一部が萎縮することとされているが、いまだ不明な点が多く、有効な治療法は確立されていない。

研究グループは、以前の研究において、マウス海馬のスライス標本に対してAβを曝露することにより海馬ニューロンに神経活性障害が生じること、また、この神経活性障害がオキシトシン添加によって回復することを明らかにしていた。しかし、実際の生体内でのオキシトシンの効果については不明だった。そこで今回、Aβ投与により作製したアルツハイマー型認知症のモデルマウスを用いて、行動実験を行った。また、臨床応用の可能性を考慮して、非侵襲的な投与方法についても検討した。

オキシトシン脳室内投与のモデルマウス、Y字型迷路試験で自発的交替率が回復

まず、Aβを脳室内に投与することで作製したアルツハイマー型認知症モデルマウスの認知機能を評価するため、代表的な試験方法の一つであるY字型迷路試験を行った。この試験では、マウスの空間作業記憶(特定の課題を完遂するまでの一時的な情報記憶)を評価することができる。この試験において正常なマウスでは、既に訪れた走路を記憶し、訪れていない走路を選択する傾向があるため、自発的交替率が高くなる。

実験の結果、モデルマウスでは、コントロールマウスに対して、自発的交替率が著しく低下した。しかし、オキシトシンを脳室内投与したモデルマウスでは、自発的交替率が有意に上昇し、コントロールマウスと同程度まで回復した。また、オキシトシン受容体拮抗薬(L-368,899)を、オキシトシン投与に先駆けて投与したところ、上記でみられたオキシトシンによる改善効果は消失した。このことから、空間作業記憶について、オキシトシンは受容体を介してモデルマウスの認知行動障害を改善することがわかった。

空間参照記憶についても、オキシトシンは認知行動障害を改善

次に、モリス水迷路試験を行い、マウスの空間参照記憶(全試行にわたって有効な情報記憶)を評価した。この試験において正常なマウスでは、試行を繰り返すうちに位置関係を学習するため、足台に早く到達できるようになる。

実験の結果、Aβを投与したモデルマウスでは、コントロールマウスに対して、足台までの到達時間が顕著に長くなった。しかし、モデルマウスにオキシトシンを脳室内投与したものでは、到達時間が有意に短縮され、コントロールマウスと同程度まで回復した。また、モデルマウスでは、コントロールマウスに対して遊泳距離が著しく長くなったが、オキシトシンを投与したものでは、有意に短縮された。このことから、空間参照記憶についても、オキシトシンはモデルマウスの認知行動障害を改善することがわかった。

誘導体化オキシトシン、非侵襲的な経鼻投与で低下した自発的交替率を改善

さらに、脳室は脳の中心部に位置しているため、脳室内投与は非常に侵襲的な方法となり、臨床応用には不向きであることから、他の投与方法として経鼻投与を試行した。しかし、オキシトシンを経鼻投与したところ、認知行動障害に対する改善効果はみられなかった。そこで、脳内への移行性を向上させるため、ドラッグデリバリーシステム(DDS)の技術で特定のアミノ酸配列を付加することにより誘導体化したオキシトシンを作製した。この誘導体化オキシトシンを経鼻投与したところ、Y字型迷路試験において、モデルマウスの低下した自発的交替率を改善することに成功した。

鼻腔から吸入された後、海馬および視床下部傍核へ移行

そして、FITC(Fluorescein Isothiocyanate)で標識することにより、誘導体化オキシトシンが経鼻投与後どこに分布するか調べたところ、海馬および視床下部傍核においてFITCのシグナルを検知することができた。このことから、誘導体化オキシトシンは、鼻腔から吸入された後効率よく脳内へ移行することがわかった。

今回の研究について研究グループは、「オキシトシンが、アルツハイマー型認知症で認められる認知機能の低下を改善させる可能性を示唆することができた。作製した誘導体化オキシトシンは、非侵襲的な投与方法である経鼻投与でも効率よく脳内に移行し、認知機能の障害を改善することから、誘導体化オキシトシンがアルツハイマー型認知症の治療薬となることが期待できる」と、述べている。

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