上皮系/間葉系の各細胞オルガノイドから毛包前駆組織を誘導しても、成熟毛包は形成できず
神奈川県立産業技術総合研究所は10月24日、生体外で高効率(~100%)に長毛を生み出す毛包オルガノイドを作製する方法を開発したと発表した。この研究は、同研究所/横浜国立大学の景山達斗研究員/助教、福田淳二プロジェクトリーダー/教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Science Advances」に掲載されている。
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ヒトの体を構成する臓器・組織は、異なる種類の細胞からなる非常に複雑な構造を持っており、これらは発生過程において、上皮系細胞と間葉系細胞の相互作用によって形成される。しかし、上皮系細胞と間葉系細胞を生体から分離して試験管内で培養すると、目的細胞への分化に必要な相互作用が得られず、生体内とは異なる動態を示し、臓器・組織への形態形成が生じない。そのため、上皮系細胞と間葉系細胞が生体内と同様に自己組織化するような体外培養手法の研究が進められてきた。
毛包は、この2種類の細胞の相互作用を理解するための典型的なモデルとして用いられている。海外の研究グループの先行研究において、上皮系細胞と間葉系細胞をオルガノイドにして毛包の前駆組織を誘導する研究が進められてきたが、成熟した毛包を形成することはできていなかった。
上皮系+間葉系細胞の自己組織化による空間配置制御が成熟毛包の再生に重要
研究グループは、マウス胎児皮膚から採取した上皮系細胞と間葉系細胞を、低濃度のマトリゲルを添加した培地に懸濁し、オルガノイド培養を実施。低濃度のマトリゲルの添加により、培養2日目の細胞の凝集体の空間配置パターンがダンベル構造からコアシェル構造に変わった。培養4日目のヘアフォリクロイドの組織切片を解析したところ、コアシェルの界面近傍で上皮-間葉相互作用により生じるWntシグナルの活性化がみられ、Wnt10b陽性細胞を含む毛芽が形成された。さらに培養6~10日目には、毛幹がヘアフォリクロイドから伸長する様子が観察された。ヘアフォリクロイドをマトリゲルに包埋し23日間培養した場合では、毛幹の長さは約3mmまで伸長した。
このオルガノイドの形成が、マトリゲルのどのような性質に依存したものかを検証するため、マトリゲルの主要成分やそれ以外の生体材料を培地に添加する実験を行った。その結果、マトリゲルにほとんど含まれない、I型コラーゲンでもコアシェル構造の形成とその後の毛包再生が観察された。このことから、ゲル成分が直接的にオルガノイド形成を促すのではなく、細胞がコアシェル構造をとることが重要であることがわかった。
ヘアフォリクロイド、毛周期は少なくとも約1年継続
この空間配置パターンの変化は、差次接着性仮説(Differential Adhesion Hypothesis)で説明することができる。マトリゲルやコラーゲンなどの細胞接着性のマトリクスの添加により、異種細胞間の接着性が高まったことで、異種排他的なダンベル構造ではなく、コアシ髪色変化に関連する実験では、培養2日目のヘアフォリクロイドの培養液にメラノサイト刺激ホルモン(α-MSH)を添加し、10日間培養を行った後、色素合成に関わる遺伝子の発現や再生した毛幹の毛髪メラニン色素の量を評価。ヘアフォリクロイドはα-MSHの刺激に応答して、色素量を優位に増加させた。髪色変化に関連する実験では、培養2日目のヘアフォリクロイドの培養液にメラノサイト刺激ホルモン(α-MSH)を添加し、10日間培養を行った後、色素合成に関わる遺伝子の発現や再生した毛幹の毛髪メラニン色素の量を評価した。ヘアフォリクロイドはα-MSHの刺激に応答して、色素量を優位に増加させた。
毛髪再生に関連する実験では、培養6日目のヘアフォリクロイドをヌードマウスに1つずつ移植。移植3週後に移植部から毛幹が伸長する様子が観察され、その後、同じ場所から毛髪が生え変わる様子が確認された。この毛周期は少なくとも約1年継続することを観察しているという。
髪の毛の増加を可能とする毛髪再生医療実現に期待
研究グループは今後、開発したヘアフォリクロイドを生命現象理解や創薬、再生医療に応用していくための最適化実験を進めていく予定だ。生命現象理解においては、毛包においてメラノソームがどのように色素細胞から毛母細胞へ輸送されるのかといったメカニズムを理解したいと考えている。最新のイメージング技術を駆使して、毛包のメラノソームの動態を把握していく予定だ。この研究により、毛髪が色づくメカニズムについての知見を広げていきたいとしている。創薬、再生医療においては、細胞源をヒト細胞へ置換してヘアフォリクロイドを作製する研究を進めている。ヒト細胞でのヘアフォリクロイドの開発は、毛髪疾患における新たな薬剤の創出に貢献し、髪の毛の増加を可能とする毛髪再生医療の実現につながると考えている、と述べている。
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・神奈川県立産業技術総合研究所 プレスリリース