ダイエット後に生じる「体重リバウンド」の機構は明らかにされていなかった
岐阜大学は10月19日、食事制限(ダイエット)後に、体重リバウンドを起こすか否かを決定する脳視床下部の神経機構を発見したと発表した。この研究は、同大医学系研究科客員教授・関西電力医学研究所統合生理学研究センター長の矢田俊彦らの研究グループによるもの。研究成果は、「Frontiers in Nutrition」オンライン版に掲載されている。
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肥満症や糖尿病の治療のためのダイエットにおいて、種々の強度の食事制限が用いられている。食事制限後の急性(短期間)の摂食量増加は、低下した生体エネルギーの補給に必要だが、しばしば晩発性の過食と体重の増加(リバウンド)を生じる。しかし、リバウンドの機構については明らかにされていなかった。
脳内で食欲を作り出す神経物質の1つに「視床下部弓状核ニューロペプチドY(NPY)」があり、Y1受容体を介して摂食を促進することが知られている。視床下部室傍核の食欲抑制性のオキシトシン(OXT)神経は興奮性シナプス伝達により活性化され、摂食を抑制する。弓状核NPY神経はNPY分泌を介し、室傍核OXT神経を抑制性に制御している。
24時間の100%食事制限、視床下部室房核OXT神経への興奮性シナプス後電流を抑制
研究グループはまず、食事制限したマウスから取り出した脳スライスで神経細胞活動を測定する実験を行った。その結果、24時間の100%食事制限は、視床下部室房核OXT神経への興奮性シナプス後電流(EPSC)を抑制することがわかった。
また、24時間の食事制限後に自由摂食条件にすると、このシナプス電流の抑制および1日摂食量の増加が3日間継続した。24時間の50%食事制限でも同様の効果を示したが、程度は小さく、継続期間は1~2日と短い効果が示されたという。
食事制限<NPY<Y1受容体<OXT神経シナプス電流抑制<摂食量増加
次に、シナプス電流の抑制と1日摂食量の増加の機序を解析。食事制限によるシナプス電流入力抑制と急性の摂食量増加は、Y1受容体阻害剤の脳室内投与で打ち消された。さらに、単離した脳スライスをNPYで短時間処理すると、OXT神経のシナプス電流は抑制され、その作用はY1受容体阻害剤の投与で打ち消された。以上の結果より、「食事制限→NPY→Y1受容体→OXT神経シナプス電流抑制→摂食量増加」の経路が明らかとなった。
100%食事制限は7日目~摂食量と体重リバウンド増、50%では摂食量持続・体重減少
食事制限の後、自由摂食で長期観察すると、100%食事制限は7日目以降に晩発性の摂食量と体重のリバウンド増加を起こした。一方、50%食事制限は持続的な摂食量と体重の減少を示した。
100%および50%食事制限再摂食後1日のデータを解析すると、OXT神経への興奮性シナプス電流と摂食量増加の間の関係は飽和曲線を示し、ヒステリシス(不可逆的な変化)が示唆された。
食事制限後の摂食量増加、NPY-Y1受容体を介したOXT神経へのシナプス電流抑制による
これらの結果から、食事制限後にエネルギー不足を補うために摂食量を増加する脳内機構として、「NPY-Y1受容体を介したOXT神経へのシナプス電流の抑制」を発見。さらに、シナプス電流抑制→摂食量増加の関係がヒステリシス(不可逆的変化)を起こさない適正な強度の食事制限を用いることが、体重リバウンドを起こさずダイエットを成功させる鍵であることを見出した。
適切な強度にして脳内神経経路を可逆的な範囲で作動させることが、ダイエットの成功の鍵
今回の研究により、ダイエット後の摂食量増加の脳内神経経路が解明された。これにより、ダイエットの強度を適切にし、脳内神経経路を可逆的な範囲で作動させることで、体重リバウンドを起こさないダイエットの成功につながることが明らかになった。
「この知見を取り入れた食事療法を考案することにより、肥満症・糖尿病の優れた予防治療につながると期待される」と、研究グループは述べている。
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