再発・難治性DLBCLの有力な治療法であるCAR-T療法、重症CRSを含む合併症の管理が課題
京都大学は10月19日、キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法を受けたびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)48例を対象に、CAR-T細胞投与前日と投与3日後での採血結果の変動を解析し、「血清リン(iP)値の低下」と「サイトカイン放出症候群(CRS)の重症度および発症」が密接に関連していることを突き止めたと発表した。この研究は、同大医学部附属病院血液内科の中村直和医員(現 神鋼記念病院)、新井康之助教(兼 院内講師、検査部・細胞療法センター助教)と、同大大学院医学研究科高折晃史教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「British Journal of Haematology」にオンライン掲載されている。
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CAR-T療法は、新しいタイプの細胞療法として注目を集めている。国内でも2019年に再発難治性の悪性リンパ腫と急性白血病の一部に製造承認が出され、実施件数が急速に増加している。CAR-T細胞療法は、殺細胞性抗がん剤を中心とした既存の治療法では救うことの出来なかった症例の一部で高い治療効果を発揮する一方で、CRSを始めとした特有の合併症により、投与後の容態管理に難渋するケースも少なくない。治療前時点での残存病変の量など患者背景によりCRSを予見する試みが行われているが、CAR-T細胞療法の最中に有用となる指標(バイオマーカー)はほとんど知られていなかった。
DLBCL48例を解析、血清iP値低下はCRS発症の1日前に見られ、重症度とも密接に関連
研究グループは、同大医学部附属病院血液内科において、CAR-T療法としてチサゲンレクルユーセルとリソカプタゲンマラルユーセルを投与されたDLBCL48例を対象に、CAR-T細胞投与前日と投与3日後での採血結果の変動を解析した。その結果、iP値、カリウム(K)値、マグネシウム(Mg)値のみがCAR-T細胞投与前と比べて、10%以上の変動を認めていることがわかった。3項目の変動とCRS重症度の関係を解析し、血清iP値がCRS重症度と密接に関連していることを突き止めた。時系列に沿って確認すると、血清iP値はCAR-T細胞投与翌日から低下し始め、4日後に最低値となり、3週間程度をかけて元の値まで回復していた。また、血清iP値低下はCRS発症の1日前に見られていた。血清iP値低下の原因を突き止めるために尿検査を行ったところ、全例で尿中への排泄亢進が認められた。リン動態に関わる既知のホルモンであるパラトルモン(PTH)、活性型ビタミンD3、線維芽細胞増殖因子(FGF)23の変動を調査したが、いずれのホルモンも血清iP値低下による二次的変動と考えられる挙動を示していた。
未解明の体内リン動態制御機構を解き明かす鍵となる可能性も
今回の研究では、血清iP値がCAR-T療法におけるCRSの発症および重症化のバイオマーカーとなり、血清iP値のモニタリングが合併症管理の一助となることが示された。また、この現象は体内の急激なサイトカイン産生を契機に未知のメカニズムにより腎尿細管からのリン再吸収が抑制されたものと推測された。体内のリン動態制御機構は未解明であり、今回の研究はその謎を解き明かす鍵となりうる重要な現象を捉えているものと考えられるという。
研究グループは、「今回の研究で得られた知見は、すでに臨床現場に還元され、血清iP値の低下を認めた場合、翌日にはCRSが発症する可能性が高いという判断に使われたり、発熱の原因を探る上で重要な役割を果たしている。このように、血清iPの低下は、CAR-T細胞療法におけるより適切なCRS管理の一助になるだけでなく、リンの体内制御機構の解明に寄与する現象になるものとるものと考えている」と、述べている。
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