全身型重症筋無力症、低い社会認知度、不十分な改善レベルが課題
アレクシオンファーマはユルトミリス(R)点滴静注(一般名:ラブリズマブ〈遺伝子組換え〉)の成人の全身型重症筋無力症(gMG)の適応拡大の承認取得を受け、2022年9月15日にメディアセミナーを開催し、鈴木重明氏(慶應義塾大学医学部神経内科准教授)が「MGの現状」について、村井弘之氏(国際医療福祉大学医学部 脳神経内科学主任教授/国際医療福祉大学成田病院 脳神経内科部長)が「2022年5月のMG診療ガイドラインの改訂ポイントとユルトミリス適応追加の意義」について、それぞれ講演を行った。
重症筋無力症(MG)は最も頻度の高い神経系の自己免疫疾患であり、2018年における全国疫学調査1)では、日本全国でおよそ3万人の患者がいると考えられている。適切な治療を行えば死に至ることは少ないが、まぶたが垂れ下がる症状のほか、全身の筋力が落ちることによる易疲労性、しゃべりにくさ、嚥下障害、呼吸筋のまひなど、生活に大きな支障を来す。
日内変動があることも大きな特徴で、休むと回復することが、診断や患者自身の自覚、周囲の理解を難しくする一因ともなっている。
慶應義塾大学医学部神経内科准教授
鈴木重明氏
鈴木氏は、「多くのMG患者さんの臨床情報を共有、解析することで得られるさまざまなデータに基づく良質な治療の実現」を目的とし、2009年にJapan MG Registry研究を立ち上げた。
その背景として、「抗体検査だけではなく、正確な現状と何に困っているかを把握して、メリット・デメリットを洗い出し、それまで明確でなかった治療目標をきちんと設定することが必要だった」(鈴木氏)と振り返る。2017年の調査では、就業しているMG患者の27%が失職を経験、また36%が収入減少を経験し、その47%は収入が半減したことが明らかになった2)。現在でも症状の改善レベルやQOLは多くの場合で不十分だったり、周囲から病気に対する理解が得られにくかったりなど、社会的課題は少なくない。
ユルトミリスに寄せられる期待
MG治療は「施設や主治医によって多様」(鈴木氏)だが、2014年にはじめて出された診療ガイドライン3)から副作用の多い経口ステロイドはなるべく少量にとどめ、免疫抑制剤との併用を行うことと、早期の積極的治療は基本方針として提唱されている。治療薬も著しい進歩を遂げ、近年ソリリス(R)点滴静注(一般名:エクリズマブ〈遺伝子組換え〉)やユルトミリスという分子標的薬が選択肢に加わった。
鈴木氏は2022年度版の診療ガイドライン4)の基本方針として、「成人発症MGの長期完全寛解は得難い(完全寛解は20%程度)こと、治療は生涯にわたることを意識し、QOLやメンタルヘルスを良好に保つこと」を提示し、ステロイドは現在もメインの治療薬であるとしつつも、診療ガイドラインでも提示されている経口プレドニゾロン5mg/日以下でminimal manifestations(MM; 軽微症状)レベルの達成状況は2021年現在で半数に過ぎず、特にMG全体の15~20%を占める5)難治性患者に対する新薬の期待は大きいと語った。
MGではB細胞などの補体の活性化によって作り出された自己抗体が全身の神経筋接合部の脱落を促し、その結果、筋力低下による易疲労が引き起こされる。そのため補体の活性化を抑えることが、治療の大きな目的になる。なお診断は採血による自己抗体の検出が有用だが、抗体が検出されない場合は診断が遅れるケースもある。
ユルトミリスは今回、成人gMG患者175人を対象にした国際共同第3相試験「CHAMPION-MG」6, 7)の結果に基づき、従来の治療(免疫グロブリン大量静注療法または血液浄化療法)による症状の管理が困難な、抗アセチルコリン受容体抗体陽性の成人gMGに対する適応追加の承認を得た。補体の活性化を速やかにかつ持続的に阻害するのはソリリスと同様だが、ソリリスが2週に1度の点滴静注が必要なのに対し、ユルトミリスは2回目以降、8週に1度の外来での投与で済む。鈴木氏は「仕事を休む時間を減らすことができ、社会に与えるメリットも大きい」と語り、村井弘之氏(国際医療福祉大学医学部 脳神経内科学主任教授/国際医療福祉大学成田病院 脳神経内科部長)は「頻繁な通院が大変な患者さん(勤務者、高齢者、育児中の女性、病院が遠い方、交通が不便な地方にお住まいの方)には朗報である」とコメントした。
診療ガイドラインで近年の治療方針の展開のキャッチアップを
国際医療福祉大学医学部 脳神経内科学主任教授/
国際医療福祉大学成田病院 脳神経内科部長
村井弘之氏
2022年5月における診療ガイドラインの改訂では、MGの新しい分類と治療アルゴリズム、診断基準の改訂や難治性の定義が示されるとともに、漸増漸減の高用量経口ステロイドは推奨しないと明記されたこと、そして新たに分子標的薬(補体阻害薬)が記載されるなどの点が加わった。村井氏は、MG診療に関わる医師が誰でも「このガイドラインを読むことにより簡潔にMG最新治療の基本がわかる」と期待を寄せた。
MG治療薬の使い分けについて村井氏は、現在検討中ではあるが、抗体をはじめとする患者の状況や、重症度によって変わってくるだろうと答えた。加えて患者の希望も重要で、薬剤の選択肢が増えることでそれに応じることが可能になるとした。
また、重症度区分や分類について、厚生労働省の示す基準と診療ガイドラインで一部一致していない箇所がある件について「今回の診療ガイドラインは大勢の専門家が時間をかけて検討し、意見がしっかり入っている。将来的にはガイドラインに統一できるよう努力したい」と語った。
2)Nagane Y, et al. BMJ Open 2017; 7(2): e013278. 3)日本神経学会監修.重症筋無力症診療ガイドライン2014.4)日本神経学会監修.重症筋無力症/ランバート・イートン筋無力症候群診療ガイドライン2022.5)Tran C et al. Eur J Neurol 2021: 28(4); 1375-1384. 6)社内資料:補体阻害剤未治療の全身型重症筋無力症患者を対象とした国際共同第相試験(承認時評価資料)7)Vu T, et al. NEJM Evid 2022; 1(5).