FH患者は出生時から血中LDL-C値が高く、皮膚や腱に黄色腫が出現
国立循環器病研究センターは10月18日、家族性高コレステロール血症(Familial Hypercholeserolemia:FH)の病態について、APOB遺伝子のアレル頻度の低いp.(Pro955Ser)バリアントが寄与することを明らかにしたと発表した。この研究は、同研究センター病態ゲノム医学部の堀美香客員研究員(現 名古屋大学環境医学研究所)、高橋篤部長、内分泌代謝ゲノム医療部の細田公則部長、分子病態部の小倉正恒客員研究員(現 東千葉メディカルセンター)、斯波真理子客員研究員(現 大阪医科薬科大学)らの研究グループによるもの。研究成果は、「The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism」にオンライン掲載されている。
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FH患者は、生まれた時より血中LDLコレステロール(LDL-C)値が高く、皮膚や腱に黄色腫が出現するという特徴があり、コレステロールの蓄積により動脈硬化が進行し若年齢で冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞)に罹患する確率が高くなる。FHヘテロ接合体は国内では300人に1人の頻度で存在する。
ヘテロ接合体の4割でLDLR、PCSK9遺伝子の病的バリアントを認めず原因遺伝子は不明
FHヘテロ接合体は常染色体顕性(優性)遺伝性疾患であり、血中LDLを取り込む「LDL受容体遺伝子(LDLR)」やLDLRの分解に関わる「PCSK9」遺伝子、LDLRのリガンドである「APOB」遺伝子のレア(病的)バリアント(集団内の頻度が0.5%以下)が原因として知られている。国内では、APOB遺伝子を原因とする家系は、以前研究グループが報告した1家系のみで非常に頻度が低く、LDLR、PCSK9遺伝子の病的バリアントがFHの原因として報告されている。しかしながら、国内のFHヘテロ接合体の40%では、これらの病的バリアントは認められず、原因遺伝子は不明だった。今回の研究では、原因不明のFHヘテロ接合体においてFHの病態に寄与する新しい原因/関連遺伝子を明らかにすることを目的とした。
APOB遺伝子の低頻度バリアントがFHにおけるLDLの取り込み低下と関連
同研究センターにおいて、LDLR、PCSK9遺伝子解析が実施され、病的バリアントを認めなかったFH122家系についてエクソーム解析を行った。解析から新しい原因遺伝子を見つけることはできなかったが、APOB遺伝子に着目したところ、c.2863C>T:p.(Pro955Ser)バリアントは、アレル頻度は日本人の一般人口で3.4%だったが、FH患者では15%と有意に高いことがわかった(オッズ比=4.9、95%CI[3.4-7.1]、p=6.9×10-13)。このバリアントの家系内の浸透率は低く、FHの原因とは言えなかったが、FHヘテロ接合体の全体の9.8%を占めていた。
このバリアントの機能を明らかにするために、APOBはLDLRのリガンドであることから、p.(Pro955Ser)バリアントをホモ型で有するFH患者のLDLを分離し、培養肝細胞に添加し、LDLの取り込みを確認したところ、健常人(コントロール)の44%と低下しており、既知のAPOB遺伝子の病的バリアントをヘテロ型で有する患者のLDL取り込み率と同程度だった。また、APOB遺伝子p.(Pro955Ser)バリアントは東アジア人に特徴的であることがわかった。FHはレアバリアントを原因とした単一遺伝子疾患であると考えられてきたが、FHの10%がSNP(一塩基多型)の集積であるという報告もある。今回の研究では、集団内の頻度が0.5~5%程度の低頻度のバリアントが環境要因や他の遺伝要因と重なることにより、FHの病態に寄与することが明らかになった。
「FHのみならず、他の遺伝性疾患についても、病態の重症化や多様性に低頻度バリアントが寄与する可能性が考えられる。FHについても、他の脂質代謝関連遺伝子の低頻度バリアントの病態への寄与について検討していく予定」と、研究グループは述べている。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース