NDBデータを用いて、退院時の心不全治療薬と1年予後との関連を解析
国立循環器病研究センターは10月14日、厚生労働省が保有するレセプト情報・特定健診等情報データベース(National Database、以下NDB)を用いて、心不全患者を対象として、β遮断薬・アンジオテンシン変換酵素阻害薬/アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ACEI/ARB)が良好な予後と関連するも、そこには年齢が関与していることを明らかにしたと発表した。この研究は、同研究センターオープンイノベーションセンター情報利用促進部の中井陸運室長と岩永善高部長、奈良県立医科大学、大阪大学の研究グループによるもの。研究成果は、「Biomedicine & Pharmacotherapy」に掲載されている。
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心不全は、高齢患者が中心を占め、多併存疾患や多剤併用が問題になっているが、高齢者における心不全薬と予後との関連を見た研究は乏しかった。そこで研究グループは今回、日本最大のリアルワールド診療データ「NDBデータ」を用いて、退院時の心不全治療薬と1年予後との関連を解析した。
心不全総死亡のほとんどが75歳以上を占め、再入院の47%が退院後2か月以内
研究では、2013~2018年度までの6年間における急性心不全入院患者をNDBデータベースより抽出。そのうち急性冠症候群が合併している患者・院内死亡した患者・退院時処方に心不全治療薬を1つも投与されていない患者を除外した、4,351病院32万5,263人を解析対象とした。アウトカムについては1年以内の総死亡、再入院、心不全再入院とした。
急性心不全初回入院患者において、23万2,886人(71.6%)が75歳以上であり、85歳以上は13万230人(40.0%)だった。また、総死亡のほとんどが75歳以上を占めており、心不全再入院の47%が退院後2か月以内だった。
死亡リスクはβ遮断薬で16%、ACEI/ARBで27%減少するも年齢依存的に有効性減少
退院時心不全薬として、利尿薬が27万7,516人(85.3%)と最も多く、β遮断薬は54.3%、ACEI/ARBは54.4%、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)は43.7%に投与されており、この3剤は高齢になるにつれ、投与率が低くなる傾向があった。さらに、多変量生存解析における死亡リスクは、β遮断薬投与群で16%減少、ACEI/ARB投与群で27%減少している結果となり、心不全再入院でも、β遮断薬投与群で2%減少、ACEI/ARB投与群で11%減少している結果となった。
MRA投与群では、死亡リスク減少は認めなかったものの、心不全再入院リスクは17%の減少を認めた。85歳以上の超高齢者を対象としても、死亡リスクがβ遮断薬投与群で9%減少、ACEI/ARB投与群で23%減少する結果となった。
年齢による層別解析では、β遮断薬あるいはACEI/ARB投与群では年齢依存性にその有効性は減少し、特にβ遮断薬について、80歳以上では心不全再入院リスク減少効果が消失していた。一方、MRA投与群では高齢によって有効性が減少することはなかったとしている。
超高齢者における薬物治療の改善と多剤併用リスク回避に寄与する可能性
今回の研究により、超高齢者化社会である日本のリアルワールド診療データベースにより、心不全患者におけるβ遮断薬とACEI/ARBの有効性が示された。しかし、そこには年齢依存性の関係があることも示された。
「本研究結果は、リアルワールドエビデンスとして、今後、超高齢者における薬物治療の改善と多剤併用のリスク回避に寄与することが期待される」と、研究グループは述べている。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース