誤診率は推定2~4割、適切な治療や介護の選択に大きな障壁
慶應義塾大学は10月13日、認知症診療において、アミロイドPET検査とタウPET検査の併用により診断、治療、その後の管理が大きく改善されることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大生理学教室の伊東大介特任教授、内科学教室(神経)の下濱祥助教を中心とした、同大病院メモリーセンターのメンバーからなる研究グループによるもの。研究成果は、「Neurology」に掲載されている。
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現在、日本では65歳以上の約1割が認知症と報告されており、日本の人口構成の高齢化に伴い増加する認知症の医療は、21世紀の大きな課題と考えられている。一方、働き盛りの40歳代から発症する若年性認知症も近年注目され、生活基盤の崩壊、長期介護の必要性から大きな社会問題となっている。認知症の最大原因であるアルツハイマー病は、認知症全体の6割以上を占めるといわれている。一般には、記憶障害で発症し、確実に進行することで、見当識障害や、理解判断力が低下し、最終的には人格障害、寝たきりの状態に至る難治性疾患だ。
アルツハイマー病の確定診断には、2つの病因物質、アミロイドベータとタウタンパク質が脳に異常蓄積していることを確認しなくてはならない。これらの病因物質を確認するためには、脳の一部を外科的に採取して顕微鏡で観察すること、すなわち病理検査が必要だ。しかし、身体的負担が極めて高く実際に行われることはほとんどない。現在、認知症の診断には、神経心理検査(記憶や注意力など認知機能を評価する)、頭部MRI(脳の萎縮の度合いを診る)、脳血流検査(脳の血の巡りを評価する)などを行い、総合的に判断する。ただし、どれも決定的な検査ではなく、誤診率は2~4割あるといわれている。この誤診率の高さが、適切な治療、介護の選択に大きな障壁となっている。
2つのPET検査を実施、認知症専門医による臨床診断・治療・管理を検査前後で比較
研究グループは、認知症患者、健常ボランティアにアミロイドPET検査([18F]florbetaben PET)とタウPET検査([18F]PI-2620もしくは[18F]Florzolotau PET)を施行し、認知症専門医による臨床診断、治療、管理(検査、他診療科へのコンサルテーション、リハビリテーションの追加)をPET検査前後で比較した。これまで、アミロイドPET検査の認知症診療に対する有効性を調査した報告は存在したが、近年開発されたタウPET検査の有効性を評価した研究はなかった。このタウPET検査は、アルツハイマー病以外の認知症(前頭側頭葉認知症、パーキンソン症候群など)の診断にも有用であると期待されている。
認知症患者における診断変更23.8%、管理の変更38.1%
その結果、107人の研究協力者[認知機能正常者(40人)、軽度認知障害(25人)、認知症(42人)]のうち、診断を変更したのは、認知機能正常者で25.0%、軽度認知障害で68.0%、認知症で23.8%。PET検査前後での全体的な管理変更は、認知機能正常者で5.0%、軽度認知障害で52.0%、認知症で38.1%だった。投薬の変更は、軽度認知障害で24.0%、認知症で19.0%だった。ロジスティック回帰分析により、タウPETはアミロイドPETよりも治療、管理の変更と強い関連性を持つことが明らかになった。
発症前診断および予防法の確立にも貢献する可能性
研究により、アミロイドPET検査とタウPET検査を組み合わせることで認知症患者の診断・治療が大きく変更し、特にタウPET検査は認知症診療の改善に貢献する可能性が示唆された。日本の急速な高齢化に伴い、画期的な治療法・予防法が出現しない限り認知症患者の数は急速に増加し続けると考えられている。このPET検査は、経時的に検査値の推移を観察することにより認知症の新規治療薬開発にも応用できる可能性がある。
さらに今回の研究では、認知機能正常の高齢者の25%で、2つの病因物質(アミロイドベータとタウタンパク質)のどちらかもしくは両方がすでに脳に蓄積していることがわかった。つまり、この25%の高齢者は、将来認知症になりうるリスクを持った人といえる。「このPET検査は、発症前診断、予防法の確立にも利用できると考えられる」と、研究グループは述べている。
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