最高血圧の長期変動とその後10年の2型糖尿病発症リスクとの関連を調査
名古屋大学は10月11日、経年的に収集した健診成績から把握した収縮期血圧(最高血圧)の長期的な変動が、その後の2型糖尿病の発症率の増加と関連していることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科国際保健医療学・公衆衛生学の八谷寛教授、宋澤安大学院生らの研究グループによるもの。研究成果は、「Hypertension Research」に掲載されている。
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2型糖尿病は、インスリンの分泌低下と作用不足により血糖値が慢性的に高値となる疾病。網膜症(失明)、腎症(腎不全)、神経障害などの特有の合併症や、心筋梗塞や脳卒中など動脈硬化性疾患の主要な原因となる。生活習慣や社会環境の変化、そして高齢化により、糖尿病患者数は日本だけでなく世界的に急速に増加しており、その予防やより適切な管理が急務だ。血圧の変動とは、複数回測定した血圧がばらつくことで、秒や時間の単位でのばらつき(短期的変動)と月や年単位の長期的変動があり、短期的変動と2型糖尿病の発症との関連を報告している研究もあるが、長期的変動と2型糖尿病の発症リスクとの関連を調査した研究はほとんどない。
今回、研究チームは、研究代表者の八谷寛教授らが中部地方自治体職員を対象として実施している糖尿病等生活習慣病の追跡研究である愛知職域コホート研究のデータを使用。収縮期血圧(最高血圧)の長期変動と、その後約10年間の追跡期間中の2型糖尿病発症リスクとの関連を調べた。解析は、研究開始時に糖尿病のない3,017人を対象とし、うち135人が約10年間の追跡期間中に2型糖尿病を発症。血圧の長期変動の指標として(二乗平均平方根誤差「Root Mean Square Error:RMSE」)と追跡期間中の2型糖尿病の発症率との関係を、変動に関連し2型糖尿病発症率にも関連するかもしれないその他の因子(交絡因子)である性別、年齢、喫煙及び運動習慣、食塩摂取量、肥満度、糖尿病の家族歴、追跡開始時の血糖値等の影響を統計学的な方法により調整して検討した。
収縮期血圧の変動「大」の2型糖尿病発症リスク、「小」の1.79倍
研究の結果、収縮期血圧の変動(RMSE)が大きい群は小さい群よりも2型糖尿病発症リスクが1.79倍高いことが示された。なお、変動の指標にはいくつかの種類のものが知られているが、隣り合う2回の測定値の差の絶対値を平均した平均実変動「ARV」を用いて血圧変動の大きさを評価した場合も、2型糖尿病発症リスクとの間に同様の関連性が認められた。
収縮期血圧の長期的な変動が、将来の2型糖尿病発症のリスクに関連することを示した同研究結果は、長期的な収縮期血圧データの蓄積とその変動性の評価の重要性、変動を規定する要因に介入できる可能性を示すものだという。収縮期血圧等の健康に関連するデータを長期的に保存し、解析するツールの開発や、さらなる研究による基準値の検討、また変動およびそれが2型糖尿病発症につながるメカニズムの解明、そして介入方法の検討によりリスクの高い個人の同定や予防プログラムの開発が期待される、と研究グループは述べている。
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