SBMA、寒冷曝露により惹起される筋力低下の詳細を検討
名古屋大学は10月11日、球脊髄性筋萎縮症(SBMA)について、寒冷で増強する運動症状(寒冷麻痺)の詳細を検討し、その背景にあるNa電流異常を是正するメキシレチン塩酸塩を内服することで、一部の運動機能改善の可能性があることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科神経内科学の勝野雅央教授、山田晋一郎医員(筆頭研究者)、同大臨床研究教育学の橋詰淳講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Annals of Clinical and Translational Neurology」電子版に掲載されている。
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SBMAは、成人男性において進行性の筋萎縮・筋力低下を呈する希少な神経筋疾患。これまでに、本疾患の原因タンパク質(病態の原因となっている異常なタンパク質)である変異アンドロゲン受容体(AR)タンパク質が運動ニューロンの細胞核内に移行、集積し、さまざまな遺伝子の発現を阻害することが同疾患の病態の根幹であることが明らかになり、それに基づく治療法の開発が進められてきた。しかし、同疾患に対して症状改善効果を有する対症療法は現時点では確立されておらず、患者のADLやQOLを向上させる治療法の開発が急務だ。
SBMA患者がしばしば経験する寒冷曝露により惹起される筋力低下については、これまで解明されていなかった。そこで研究グループは、この筋力低下について深く考察することから治療法の糸口を見出すことができないか、と考えた。
寒冷下の筋力低下の原因として報告の「Na電流異常」に着目
研究グループは、寒冷曝露がSBMA患者のADLや運動機能、神経伝導検査に及ぼす影響を検討。その結果、SBMA患者の88.0%は寒冷麻痺を自覚しており、不可逆的な筋力低下を自覚する前から生じる前ぶれ症状の一つであることが明らかとなった。
次に、寒冷曝露を再現した状態では、SBMA患者の運動機能(握力などの上肢運動運動)が悪化し、電気生理学的にも変化(尺骨神経遠位潜時の延長)を認め、運動機能の悪化と関係していることも示された。このことから、寒冷下の筋力低下の原因として報告されているNa電流異常に着目した。
メキシレチン塩酸塩投与時に10秒テストや舌圧が改善
これまでの観察研究の結果に基づき、「球脊髄性筋萎縮症患者に対するメキシレチン塩酸塩経口摂取の有効性及び安全性を検討する多施設共同ランダム化二重盲検クロスオーバー比較試験」(MEXPRESS試験)を特定臨床研究として実施。その結果、Na電流異常を是正するメキシレチン塩酸塩投与時に10秒テスト(上肢の運動機能)や舌圧(飲み込みに関わる運動機能)が改善した。
また、メキシチレン塩酸塩を内服することにより、これまで報告されていない、あるいは重篤な有害事象が認められなかった。このことから、短期間であれば比較的安全に使用できることも明らかになった。
引き続きイオンチャネルに着目、SBMA治療法開発へ
今回の研究では、運動麻痺がとくに寒冷によって悪化することに着目し、同症状の背景にあるNa電流異常を是正することによって、運動機能を改善させられる可能性があることが示唆された。今後は、Naチャネル電流異常が生じるメカニズムについて検討するとともに、引き続きイオンチャネルに着目したSBMAの治療法開発を進めていく、と研究グループは述べている。
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