世界各国でBA.2.75「ケンタウロス株」同定の報告が増加
東京大学医科学研究所は10月12日、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の懸念される変異株(VOC:variant of concern)のひとつである「オミクロンBA.2.75株(通称ケンタウロス)」のウイルス学的特徴を、流行動態、免疫抵抗性、および実験動物への病原性等の観点から明らかにしたと発表した。この研究は、同研究所システムウイルス学分野の佐藤佳教授が主宰する研究コンソーシアム「The Genotype to Phenotype Japan(G2P-Japan)」によるもの。研究成果は、「Cell Host & Microbe」オンライン版に掲載されている。
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現在、世界中で新型コロナウイルスのワクチン接種が進んでいるが、ウイルスについてはまだ不明な点が多く、感染病態の原理やウイルスの複製原理、流行動態の関連については、ほとんどわかっていない。
2020年以降、新型コロナウイルスが、その流行過程において高度に多様化し、新たな特性を獲得した「変異株」が出現していることが明らかとなっている。2021年末に南アフリカで出現した新型コロナウイルス「オミクロンBA.1株」は11月26日に命名されて以降、またたく間に全世界に伝播した。その後、2022年1月から世界各国で、オミクロン株の派生株である「オミクロンBA.2株」が検出され、日本を含む多数の国々に広がった。さらにその後、オミクロンBA.2株の亜株のひとつである「オミクロンBA.5株」への置き換わりが世界中で急速に進んだ。現在、インドを始めとした世界各国でオミクロンBA.2株の亜型「オミクロンBA.2.75株」同定の報告が増えつつある。
4回のワクチンで誘導される中和抗体に抵抗性を示す
また、オミクロンBA.2.75株は、オミクロンBA.2株と比べると、4回のワクチンによって誘導される中和抗体に抵抗性を示すこと、さらに、オミクロンBA.2株やオミクロンBA.5株免疫動物の検体を用いた解析の結果、オミクロンBA.2株やオミクロンBA.5株単独によって誘導される抗体は、オミクロンBA.2.75株への中和活性が低下していること、オミクロンBA.2.75株単独によって誘導される抗体は、オミクロンBA.2株やオミクロンBA.5株への中和活性が低下していること、つまり、オミクロンBA.2株とオミクロンBA.5株、そしてオミクロンBA.2.75株はそれぞれ抗原性が異なることを明らかにした。また、オミクロンBA.2.75株は感染受容体であるACE2と非常に強く結合することを示した。
BA.2.75株は、肺上皮細胞での増殖効率・体重減少・呼吸機能の異常を示す数値「高」
このメカニズムとして、BA.2.75株は、これまでの流行株にとって感染に防御的に作用していたACE2の糖鎖を、逆に利用できるように進化し、より感染力を高めたことを、スパイクタンパク質とACE2複合体の構造解析および結合解析実験により明らかにした。また、培養細胞を用いた感染実験の結果、オミクロンBA.2.75株は、オミクロンBA.2株よりも、合胞体形成活性が高いことを見出した。さらに、ヒトiPS細胞由来肺上皮細胞を用いた感染実験の結果、オミクロンBA.2.75株は、オミクロンBA.2株よりも肺上皮細胞における増殖効率が高いことを確認した。
最後に、ハムスターを用いた感染実験の結果、オミクロンBA.2.75株は、オミクロンBA.2株に比べ、体重減少が有意に大きく、また呼吸機能の異常を示す検査数値が有意に高いことを突き止めた。
第8波回避のために有効な感染対策を講じることが肝要
今回の研究により、オミクロンBA.2.75株は、オミクロンBA.2株よりも病原性が高いことが明らかになった。また、同研究により、オミクロンBA.2.75株はオミクロンBA.2株やオミクロンBA.5株と抗原性が異なること、そして、オミクロンBA.2.75株のヒト集団での実効再生産数は、オミクロンBA.2株に比べて1.34倍高いことも判明した。現在、オミクロンBA.5株による流行拡大は収まりつつあるが、今後、オミクロンBA.2.75株が第8波の主体になる可能性も懸念されており、これを回避するために有効な感染対策を講じることが肝要だ。現在、「G2P-Japan」では、出現が続くさまざまな変異株について、ウイルス学的な正常解析や、中和抗体や治療薬への感受性の評価、病原性についての研究に取り組んでいる。
「今後も、新型コロナウイルスの変異(genotype)の早期捕捉と、その変異がヒトの免疫やウイルスの病原性・複製に与える影響(phenotype)を明らかにするための研究を推進する」と、研究グループは述べている。
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・東京大学医科学研究所 プレスリリース