主に大脳皮質左半球が関与と考えられていた言語機能
東海大学は10月7日、主に大脳皮質左半球が関与していると考えられていた言語機能において、新たに小脳が関与していることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大情報通信学部の中谷裕教講師、東京大学大学院総合文化研究科の中村優子准教授、帝京大学先端総合研究機構の岡ノ谷一夫教授の研究グループによるもの。研究成果は、「The Cerebellum」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
言語はヒトの知性を特徴付ける高次認知機能の一つ。ブローカ野やウェルニッケ野に代表されるように、大脳皮質の左半球が言語機能に関与していることは従来から知られていた。一方、脳機能イメージングの技術が発達して言語機能に関わる脳活動を計測できるようになると、小脳の右外側部も言語機能に関連して活動を示すことがわかってきた。しかし、小脳の代表的な機能は身体の制御などの運動機能であると考えられており、言語機能における役割は明らかになっていなかった。
小脳の外側部はヒトの進化の過程において、ここ数百万年で急激に大きくなったことが知られている。そのため研究グループは、言語のようなヒトを特徴付ける高次認知機能に小脳外側部が密接に関与しているのではないかとの仮説を立て、言語機能における小脳の役割の検証を試みた。
小脳右外側部に、文法処理/意味処理それぞれを担う部位を発見
今回の研究では、日本語を母国語とする28人に対して日本語の短文を提示し、その時の脳活動を機能的磁気共鳴画像法(fMRI)で計測。実験ではまず「太郎は花子が試験に合格したと聞いた」のような埋め込み構造のある文を提示して、埋め込みの深さと脳活動の関係を評価した。文法処理の責任部位としては、大脳皮質左半球にあるブローカ野がよく知られているが、ブローカ野だけでなく小脳右外側部にあるCrus-Iという部位が埋め込みの深さに対応した脳活動を示した。また、ブローカ野とCrus-Iの脳活動は同期しており、これらの部位が連携して文法処理を行っていることがわかった。
次に、並び替えがなく意味が通るもの、文節レベルで並び替えて意味が推測できるもの、単語レベルで並び替えて意味が理解できないもの、この3種類の短文を提示して、並び替えのレベルと脳活動の関係を評価。その結果、文法処理には大脳皮質左半球にある側頭葉前部や角回が知られているが、これらの領域だけでなく小脳右外側部にあるCrus-IIという部位が並び替えのレベルに対応した脳活動を示した。また、側頭葉前部や角回とCrus-IIの脳活動は同期しており、これらの部位が連携して意味処理を行っていることがわかった。
言語の起源と進化に関する研究進展に期待
ヒトの進化の過程において、急激に大きくなった小脳外側部が言語機能に関与しているという事実は、ヒトだけが言語を獲得できたことに大きく関係している可能性を示している。音声コミュニケーションを多用する鳥類・齧歯類・霊長類を対象とした動物研究と本研究成果を融合させることで、言語の起源と進化に関する研究が進展するものと期待される、と研究グループは述べている。
▼関連リンク
・東海大学 ニュース