早期の転移リンパ節、薬剤の腫瘍細胞への浸潤性改善が課題
東北大学は10月6日、生理食塩水よりも浸透圧や粘度が高い薬剤を用いてリンパ節の物理的環境を変化させた条件下での、リンパ行性薬剤送達法を用いた抗がん剤カルボプラチンの薬物動態、治療効果におよぼす影響を検討した結果を発表した。この研究は、同大大学院医工学研究科腫瘍医工学分野の小玉哲也教授と岩手医科大学医学部耳鼻咽喉科頭頸部外科学講座の志賀清人教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cancer Science誌」電子版に掲載されている。
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がんは日本における死因の第1位。がんによる死亡率を減らすためには、リンパ節転移や遠隔転移を予防・抑制することが重要となる。転移リンパ節からは、リンパ管のみならず、リンパ節の被膜を貫く細い血管からリンパ節表面を走行する静脈を介して血液循環にのって腫瘍細胞が移動する。そのため、早期転移リンパ節を標的とした治療は、遠隔転移を抑えるためにも重要だ。
がんの三大治療法の一つに化学療法がある。血管から抗がん剤を注射する化学療法(全身化学療法)は、抗がん剤の進歩とともに広く臨床でおこなわれている。しかし、転移性リンパ節は、そのユニークな構造と生物物理学的特性のために、薬剤の取り込みと保持が不十分となり、全身化学療法のみではしばしば転移リンパ節での腫瘍増殖を抑制することができず、致命的な遠隔転移を引き起こす。化学療法によって転移リンパ節を効果的に治療するためには、リンパ節内に抗がん剤を特異的かつ長時間滞留させることが不可欠だ。リンパ行性薬剤送達法は、これらの要件を満たし、イメージングガイド下にリンパ節へ薬剤を直接注射する薬物送達法であり、毒性の高い薬物の副作用を最小限に抑えながら、強い治療効果を発揮することが可能だ。早期の転移リンパ節では、リンパ液が流れる空間(リンパ洞)が腫瘍細胞で閉塞されることから、薬剤の腫瘍細胞への浸潤性の改善方法が喫緊の課題だった。
浸透圧1,897kPa、粘性11.5mPa・sの近傍に至適範囲あり、マウス実験で
今回、研究グループは、転移モデルマウスを用いて、浸透圧588~2,785kPa、粘度0.9~54.6mPa・sの溶液について、リンパ行性薬剤送達法による薬物動態、抗がん剤カルボプラチンの治療効果を検証。その結果、浸透圧と粘度が高い薬剤は、リンパ洞の顕著な拡張を引き起こしてリンパ節の構造を変化させること、浸透圧と粘度は腫瘍増殖を抑制する上で重要なパラメータであること、浸透圧は1,897kPa、粘性は11.5mPa・sの近傍に至適範囲があることがわかった。
今回の研究成果から、至適浸透圧と粘度の抗がん剤は、がんの種類を問わずリンパ行性送達法への適用が可能であり、臨床的な有用性が期待される、と研究グループは述べている。
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