NO2濃度のウィークエンド効果、コロナ禍の人間活動の影響を評価する指標に
千葉大学は10月4日、新型コロナウイルスの感染拡大が急速に進行した2020年に焦点を当て、地上や衛星などから得られた日本の首都圏の大気データを統合して解析し、二酸化窒素(NO2)、ブラックカーボンなどの光吸収性エアロゾル、ホルムアルデヒド(HCHO)の大気中濃度のウィークエンド効果(週末と平日の濃度差をもたらす効果)が例年に比べて顕著に増大していたことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大環境リモートセンシング研究センターの入江仁士准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Atmospheric Chemistry and Physics (ACP)」にオンライン掲載されている。
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新型コロナウイルスの感染拡大が急速に進行した2020年に、世界各地の都市がロックダウンされた。それに伴って、自動車や産業活動による大気汚染物質の排出が抑制された結果、二酸化窒素(NO2)などの大気中濃度が例年より著しく低下したことが多くの研究で示されてきた。このように、新型コロナウイルス問題は、人間の健康や地球環境に及ぼす人間活動の影響を評価する特異な機会としても重要視されている。
地表付近ではNO2は数時間で消失するので発生源近傍で高濃度を示す。そのため、NO2は人為的な排出源を示す優れたマーカーであり、その長期連続観測は大気汚染対策の効果検証や経済不況の影響評価などに利用されている。また、人間活動との関連から、自動車や産業活動などから排出される人為的なNO2の濃度はしばしば週内で特徴的な変動を示す。このようにして週末と平日の濃度差をもたらす効果はウィークエンド効果と呼ばれる。多くの世界の都市では、人為的な窒素酸化物排出量の減少のため、NO2のウィークエンド効果が近年小さくなっていることが報告されている。このような長期的なトレンドの中で、新型コロナウイルスが発生した。
駅の乗り換えデータ、諸外国と異なり日本では週末のモビリティが10%程度減少
研究ではまず、新型コロナウイルスの影響を強く受けた世界のいくつかの大都市について、Googleモビリティ(公共の駅で乗り換えた人数)データを調べ、新型コロナウイルス発生前と比較した。その結果、国によってタイミングは異なるが、ロックダウンに伴って、モビリティが大幅に減少した。他方、日本ではロックダウンという方法は採られなかったため、モビリティの変化は他国と比較して小さく緩やかだったが、日本でも感染が拡大するとモビリティは低下したままとなった。そういった中、週内の変化の特徴を詳細に調べたところ、日本は週末のモビリティが平日よりも10%程度減少していることがわかった。ほとんどの国では週末のモビリティは平日とほぼ同じであり、世界的に見ても日本は特異な傾向を示した。
大気中の各成分はウィークエンド効果の増大を示し、日本の週末のモビリティと同期
次に、研究チームは千葉大学西千葉キャンパスで連続稼働させている多軸差分吸収分光法装置(MAX-DOAS)のデータを解析した。すると、2020年1年間では大気境界層中のNO2濃度が2019年に比べて約10%減少したことがわかった。衛星データも解析したところ、緊急事態宣言下の東京では対流圏カラム濃度が40%を超える減少を示したこともわかった。続いて、ウィークエンド効果を計算したところ、NO2のウィークエンド効果が2020年に有意に大きくなったことを、衛星データと千葉でのMAXDOASによる観測データの両方が示すことがわかった。
このことを確かめるために同様の解析を、MAX-DOASによる観測から同時に得られたホルムアルデヒドの濃度データについて行ったところ、ホルムアルデヒドのウィークエンド効果も整合して大きくなっていたことがわかった。MAX-DOASと同時に千葉大学内で稼働しているスカイラジオメーターなどのリモートセンシング機器やブラックカーボンモニターなどのサンプリング機器のデータも組み合わせて解析したところ、人為的な排出源から発生する光吸収性エアロゾルであるブラックカーボンの重量濃度、および、光吸収性エアロゾルの光学的深さ(fAAOD)のデータも日曜日に値が小さくなり、ウィークエンド効果の増大を示したことがわかった。上記の大気微量成分の変化は、近年まれであり、他国と違って異常なほど減少した日本の週末のモビリティと同期していた。このように、日本では厳しい法的規制がとられなかったにもかかわらず、感染拡大を抑えるための自主規制が強く働き習慣が変化した結果、日本特有の大気微量成分の変化を生じさせたと解釈された。
リモートセンシングによる観測で、健康や地球環境に及ぼす人間活動の影響を評価可能に
今回の研究の結果から、新型コロナウイルス問題によって日本では特有な大気中の微量成分の変化をもたらしたことがわかった。「今後、大気汚染対策の効果だけでなく、新型コロナウイルス問題の感染状況の変化や経済状況の変化によって、大気中の微量成分の変化は敏感に反応することが予期される。このような観点から、引き続きリモートセンシングによる観測とデータ解析を継続して、人間の健康や地球環境に及ぼす人間活動の影響を評価し、より効果的な環境対策への貢献を目指す」と、研究グループは述べている。
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