低周波騒音に含まれる音成分、短時間曝露の健康影響は不明
名古屋大学は10月3日、低周波騒音に含まれるヒトの皮膚血流を改善できる音成分(sound spice(R))を発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の環境労働衛生学教室の鄧雨奇大学院生、大神信孝准教授、加藤昌志教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Science of the Total Environment」電子版に掲載されている。
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低周波騒音は、100ヘルツ(Hz)以下の周波数の騒音。低周波騒音は、ヒトの会話域よりも低い周波数の騒音のため、聞き取りにくいことが特徴の1つだ。また、風力発電の風車・ヒートポンプ式給湯器・エアコン室外機・フリーザー・トラック等、多種多様な機器から低周波騒音が検出されることが知られている。近年、低周波騒音に長時間曝露されることにより健康障害が誘発される可能性も懸念されている。一方、低周波騒音や低周波騒音に含まれる音成分に短時間曝露された場合の健康影響は、ほとんど不明だった。
sound spice短時間刺激、ヒトの手足等の末梢組織で血流改善
今回、研究グループは、ヒトを対象にした研究により、低周波騒音から抽出した音成分(sound spice)の短時間刺激はヒトの手足等の末梢組織で血流を改善する効果があることを発見した。また、低周波音域の中で顕著な血行改善効果を示す音成分が存在することも明らかになった。この音成分を用いてヘッドホンで聴覚刺激を行っても、ヒトの手足等の末梢組織で血流を改善する効果は認められなかった。
さらに、音刺激による血流増加反応に関与する生体内の因子を調べる目的で、血流データのwaveletスペクトラム解析を行ったところ、音刺激中の皮膚血流増加反応には血管(血管内皮細胞)が関与することが明らかになった。
内耳は関係なく刺激部位の血管内皮細胞が関与、マウスで
次に、ヒトで得られた知見を検証する目的で実験を行った。その結果、マウスでも同様の低周波音域の音成分で同様の皮膚血流の増加反応を示すことがわかった。耳毒性薬物の投与により、内耳機能を破壊したマウスに音刺激しても、正常マウスと同様の血流増加反応を示し、この反応には内耳は関与しないことがわかった。
血管内皮細胞の機能を阻害する薬剤(一酸化窒素の阻害剤)を静脈投与したマウスを用いて、実験を行った。その結果、音刺激による血流増加反応が有意に抑制され、この反応には血管内皮細胞が関与することが明らかになった。
これらの結果より、低周波騒音の短時間刺激において、ヒトの皮膚血流を改善する音成分が含まれていることが明らかになった。また、この音成分の効果には、内耳は関係なく刺激部位の血管内皮細胞が関与することが明らかになった。
「健康に有害」とされてきた低周波騒音、「健康増進」に再利用するシステム構築に期待
研究グループは、今後、今回の発見に基づいた技術の実用化に向けて、音刺激の刺激時間について、どのくらいの時間までなら血流改善効果があるのか等について検証していくことが重要だとしている。また、低周波騒音から健康に有用な音成分を効率よく抽出する技術を開発することより、これまで健康に有害であるとされてきた低周波騒音を健康増進に再利用するシステム(sound recycle)を構築することが期待される、と述べている。
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