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糖脂質GM3が、慢性腎臓病におけるタンパク尿の新規治療標的となる可能性-北里大ほか

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2022年10月05日 AM10:52

GM3にタンパク尿を抑える役割があるのか?

北里大学は10月3日、糖脂質の主要なガングリオシド「」が、腎臓にある糸球体足細胞の機能の維持に不可欠であることを解明し、タンパク尿の新たな治療標的となることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部腎臓内科学の川島永子助教、内藤正吉講師らの研究グループと、麻布大学、、産業技術総合研究所らとの共同研究によるもの。研究成果は、「Scientific Reports」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

慢性腎臓病は成人の8人に1人存在すると推定されており、新たな国民病とも言われている。さらに、慢性腎臓病患者の中でもタンパク尿の量が多いほど、透析療法や腎移植といった治療が必要となる危険性が高くなることが知られている。腎臓は生物が生きていく過程で生じた老廃物を体外に捨てる仕事をしている。その際、身体に必要なタンパク質が体外に漏れ出ないように、タンパクろ過バリアと呼ばれる「ふるい」の役割をしている場所がある。

この「ふるい」が、腎足細胞が形作っているスリット膜と呼ばれる構造物だ。タンパク尿は、ろ過バリアが破綻したことで、血液中のタンパク質が尿中に漏れ出てしまう状態で、タンパク尿自体が腎臓病をさらに悪化させることが明らかになっている。また、タンパク尿がある人は、脳卒中や心筋梗塞などの発症率が約3倍以上になることもわかっている。

これまでに研究グループは、細胞膜上のさまざまな糖タンパク質と糖脂質が互いに協調しながら細胞の機能を維持することを明らかにしてきた。その上で、タンパク尿が出る一部の患者では、主要な糖脂質であるGM3の量が低いほど、タンパク尿が多くなっていることを見出している。しかし、GM3にタンパク尿を抑える役割があるか否かは不明だった。

抗ネフリン抗体でタンパクろ過バリアが破綻しタンパク尿が生じるとGM3の発現が低下

研究グループは、腎足細胞のスリット膜を形作るネフリンというタンパク質に対する抗体で惹起される腎臓病モデルマウスを樹立している。

今回、このマウスの腎臓を解析したところ、正常の腎臓ではタンパクろ過バリアを形作るネフリンと糖脂質GM3は互いに近くに存在する一方、抗ネフリン抗体でタンパクろ過バリアが破綻してタンパク尿が生じると、GM3の発現が低下することを見出した。

バルプロ酸のGM3増強作用が足細胞やネフリンを保護し、タンパク尿を劇的に予防

また、以前にGM3は抗てんかん薬として用いられている「バルプロ酸」によって発現が増強されることを見出していたことから、抗ネフリン抗体を用いた足細胞障害動物・ネフリン障害細胞モデルを用いて、バルプロ酸によるGM3増強作用が足細胞やネフリンを保護し、その結果、タンパク尿を劇的に予防できることを明らかにした。

さらに、GM3合成酵素遺伝子欠損マウスを用いた解析や発現糖脂質の網羅解析を行い、バルプロ酸は糖脂質の中でもGM3の発現を特異的に亢進させることで、足細胞を保護する効果があることを明らかにした。

GM3発現増強によるタンパクろ過バリア安定化が、タンパク尿の治療法開発に重要

今回の研究成果により、糖脂質GM3の発現増強によるタンパクろ過バリアの安定化が、タンパク尿の新規治療法開発の戦略として非常に重要であることが明らかになった。

研究グループは、バルプロ酸を新たなタンパク尿治療薬として臨床応用するには解決すべき課題が多くあるため、引き続きこれらの課題の解決に取り組んでいくとしている。

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