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日本人腸内のバクテリオファージ、大規模データから全貌を明らかに-早大ほか

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2022年10月03日 AM10:59

ヒト腸内のファージの多様性や生態系は未知の部分が多い「ダークマター」

早稲田大学は9月30日、Japanese 4D (Disease, Drug, Diet, Daily life) マイクロバイオームコホートの大規模データを用いた解析から、腸内に生息する膨大な数のバクテリオファージ(細菌に感染するウイルス)を網羅的に同定し、新規ファージグループを発見し全貌を解明、また、腸内ファージコミュニティーに影響を与える宿主・環境因子を多数発見したと発表した。この研究は、同大ナノ·ライフ創新研究機構の西嶋傑次席研究員(現:欧州分子生物学研究所)、理工学術院の木口悠也博士課程学生(現:東京大学)、服部正平教授(現:東京大学名誉教授)、東京医科大学消化器内視鏡学分野の永田尚義准教授、河合隆教授、国立国際医療研究センター消化器内科の小島康志医長、糖尿病研究センターの植木浩二郎センター長、感染症制御研究部の秋山徹特任研究部長、上村直実国府台病院名誉院長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

ヒトの腸内には数百から千種ほどの細菌が生息しており、それら腸内細菌叢はヒトの健康や疾患と密接に関わっている。一方、ヒト腸内にはそれらと同程度、またはそれ以上の数のウイルスが存在し、その大部分は細菌に感染するバクテリオファージ(ファージ)で占められている(その他にはヒトや真菌に感染するウイルス、食事由来のものが存在)。それらのファージは腸内において細菌に感染することで、腸内細菌叢の形成の形成やその活動に強い影響を与えていると考えられている。しかし、ヒト腸内におけるファージの多様性やその生態系は未知の部分が多く、詳細が不明であるという意味を込め、ヒト腸内環境における「ダークマター(暗黒物質、正体不明であるという例え)」と呼ばれている。今回、研究グループは、ファージゲノムを網羅的に検出する新規解析手法を開発し、Japanese 4Dマイクロバイオームプロジェクトに登録されている日本人の大規模糞便メタゲノムデータに応用することで、ヒト腸内に生息するファージを網羅的に検出し、未知のグループを含むファージコミュニティの全体像を解明した。

4,198人のメタゲノムデータよりバクテリオファージ1,347種のゲノム情報取得、その半数は新規

ヒトの腸内には細菌、古細菌、真菌、ファージ等から成る複雑な生態系が形成されており、そのコミュニティから得られたメタゲノムデータには、微量ながらファージ由来のゲノム情報も含まれている。そのファージゲノムを抽出するため、独自の情報解析パイプラインを構築し、Japanese 4Dプロジェクトにおいて4,198人の被験者から得られたメタゲノムデータへ応用した。

その結果、計1,347種のファージに由来すると推定された、4,709の高クオリティファージゲノムが得られた。これらのファージはヒトの腸内に生息するさまざまな菌種に感染することが情報学的に予測された。また、計1,347種のファージの内、約半数(50.0%)は先行研究で明らかとなったファージゲノムと相同性を示した一方、残りの半数は相同性を示さず、本研究で初めて明らかとなった新規ファージであることが強く示唆された。

ヒトの腸内で今までに知られていないファージグループを多数発見

次に研究グループは、得られたファージを定量することで、ヒトの腸内に豊富なファージグループを探索した。その結果、ヒトの腸内で最も豊富なファージグループは2015年に発見されたcrAssphageグループ、2番目は2021年に報告されたばかりのGubaphage/Flandersviridaeを含むグループであることが判明した。研究グループはこれらのグループと同程度に豊富であり、かつ今までに知られていない未知のグループを多数特定することに成功した。特に、7つのグループはヒト腸内に極めて豊富であり、多数のゲノム配列が得られた。これらのファージグループはヒトの腸内に豊富に存在するBacteroides、Ruminococcus、Bifidobacterium等に感染するファージであり、その内のいくつかは細菌のゲノムに入り込む(プロファージ)生活様式を持つことが情報学的に予測された。研究グループは所属する研究機関の所在地名に基づきこれらのファージを命名し、7つの新規ファージグループとして提案した。1.Toyamaviridae(トヤマウイルス)、2.Konodaiviridae(コーノダイウイルス)、3.Shinjukuviridae(シンジュクウイルス)、4.Okuboviridae(オークボウイルス)、5.Tsurumiviridae(ツルミウイルス)、6.Suehiroviridae(スエヒロウイルス)、7.Umezonoviridae(ウメゾノウイルス)。

年齢や性別、食習慣、生活習慣、病気、薬剤使用はファージコミュニティと関連

ヒトの腸内細菌叢には生活習慣、食生活、疾患等のさまざまな因子が影響を与えることが知られているが、どのような因子が腸内のファージコミュニティに影響を与えるかは、ほとんどわかっていない。そこで、研究グループはまずヒトの基本情報である年齢と性別との関連解析を行った。その結果、両者がファージコミュニティと強い関連を示すことが明らかとなった。年齢が上がるにつれ腸内ではProteobacteriaに感染するファージが増加する一方、Actinobacteriaに感染するファージが減少した。また、男性にはPrevotellaに感染するファージが豊富に存在する一方、女性にはFaecalibacteriumに感染するファージが豊富に存在した。これらのファージコミュニティの違いは腸内細菌叢の違いと一致しており、宿主細菌の分布がファージコミュニティを決定づける要因であることが強く示唆された。

さらに研究グループは、年齢、性別以外の食習慣、生活習慣、臨床情報も含め、計232因子との網羅的な関連解析を行った。その結果、97の因子がファージコミュニティと統計的に有意な関連を示した。特に疾患や摂取薬剤を含む臨床情報が、生活習慣や食生活よりも強くファージコミュニティと関連していることが明らかとなった。これらの因子の大部分は、以前に研究グループが報告した「腸内微生物叢に影響を与える因子」と一致していた。同じ因子が細菌とファージのコミュニティの両方に強く関連するという結果は、両コミュニティがヒトの腸内において密接な関係を築いていることを強く示唆している。また、疾患や食習慣や生活習慣を収集しているマイクロバイオームデータベースは数多くあるが、薬剤の詳細を収集しているデータベースは極めて少ないのが現状である。研究グループの結果は、ヒトマイクロバイオーム研究における薬剤情報収集の重要性と、薬剤投与歴を考慮した解析の必要性を強調している。

ファージを用いた腸内細菌の制御やそれに基づく病気の新規治療法開発に期待

研究グループは日本人を対象とした大規模な腸内メタゲノムデータを用いて、新規のファージグループを含む、腸内ファージコミュニティの全貌を明らかにした。今回の研究結果は、ヒト腸内における多様なファージとその宿主情報を含む網羅的なカタログ情報を提供し、今後腸内細菌とファージを研究する上での重要な基盤データとなる。とくに、ファージを用いた腸内細菌の制御、その制御技術に基づく病気の新規治療法や、予防法の開発につながることが期待される。また、近年深刻な問題となっている薬剤耐性菌による感染症の治療法(ファージセラピー)の開発にも応用が期待されるという。

研究グループは、「ファージの分離培養技術はまだ確立しておらず、同定したファージ分離培養する技術を開発することが課題である。実験室で容易に扱えるようにすることで、それらの役割や機能を詳細に研究する事が可能となる。また、ファージセラピーは、薬剤耐性菌による感染症だけでなく、腸内細菌が関連するさまざまな病気の治療や予防に応用できる可能性がある。臨床現場でファージセラピーを使用するためには、今後、複数の臨床研究においてファージセラピーの有効性と有害事象の知見を蓄積させることが重要である」と述べている。(QLifePro編集部)

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