「劇症型心筋炎」の患者の特徴や予後に関する大規模な報告は乏しかった
奈良県立医科大学は9月30日、劇症型心筋炎の全国レジストリを構築し、劇症型心筋炎患者の患者背景と予後、予後と関連する臨床・病理学的特徴を明らかにしたと発表した。この研究は、同大循環器内科学講座斎藤能彦名誉教授(現・奈良県西和医療センター)、国立循環器病研究センター情報利用促進部の金岡幸嗣朗上級研究員、岩永善高部長らのグループによるもの。研究成果は、「Circulation」にオンライン掲載されている。
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心筋炎は、感染等を契機として心筋に炎症をきたす疾患であり、症状が軽いものから血行動態の破綻をきたすものまで幅広い重症度を含む疾患。劇症型心筋炎は、「血行動態の破綻を急激にきたし、致死的経過をとる急性心筋炎」と定義され、心筋炎の中でも予後が不良で、まれな疾患とされている。劇症型心筋炎は希少な疾患で、症例集積が困難であることから、これまでのところ、患者の特徴や予後に関する大規模な報告は乏しいのが現状だった。
そこで研究グループは今回、劇症型心筋炎患者を対象として悉皆性の高い大規模レジストリを構築し、疫学や予後関連因子について明らかにすることを目的に、研究を行った。
各施設からカルテ情報とDPC情報を収集することで、世界最大のレジストリ構築に成功
疾患登録では、まず、日本循環器学会が主導している日本全国の循環器診療を対象とした大規模データベース「循環器疾患診療実態調査(The Japanese Registry Of All cardiac and vascular Disease: JROAD)」を使用し、日本全国の循環器専門医研修施設・研修関連施設の中で、劇症型心筋炎患者が入院した施設を抽出。劇症型心筋炎の定義は、昇圧剤・機械的補助循環を要した心筋炎とした。患者が入院した施設に対して、症例別の診療情報の収集を依頼し、倫理委員会での承認後、各施設からカルテ情報およびDPC(診断群分類別包括評価)情報を収集することで、世界最大のレジストリの構築に成功した。
収集した情報を元に、病理学的に心筋炎と診断された患者を対象として、患者背景・予後を記述し、予後と関連する臨床情報について解析を行った。また、中央施設で評価を行った心筋炎の病理画像における心筋組織障害の重症度と予後に関する関連について解析を行った。協力が得られた235施設から、344症例の病理学的に診断された劇症型心筋炎が登録、解析対象となった。
患者年齢の中央値は54歳で40%が女性、90日時点での累積死亡率は29%
解析の結果、患者年齢の中央値は54歳で、40%が女性だった。また、90日時点での累積死亡率は29%だった。患者の臨床的特徴のうち、高齢、来院時の非洞調律、心機能低下(40%未満)、心室性不整脈が、90日死亡との関連が認められた。心筋の病理組織が得られた215例を対象とした解析から、リンパ球性心筋炎において、障害を受けた心筋細胞の割合が多い症例で、死亡率の上昇との関連が認められたとしている。
劇症型心筋炎患者の予後予測に関し、より適切な情報提供が可能となる可能性
今回の研究で、これまで十分に検討されていなかった劇症型心筋炎の予後と関連する因子に関する検討が行われた。同研究から得られた成果に基づき、死亡率が高い劇症型心筋炎患者の予後予測に関して、より適切な情報提供が可能になると考えられる。
「今後は、現時点でも確立していない心筋炎の治療法や、心筋における炎症細胞浸潤の様式やその意義に関してさらなる検討を行っていく予定だ」と、研究グループは述べている。
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・奈良県立医科大学 報道資料