一次性僧帽弁逆流症への運動負荷心エコー図検査を施行した症例解析、運動誘発性肺高血圧と予後の関係は?
国立循環器病研究センターは9月28日、一次性僧帽弁逆流症患者に対する運動負荷心エコー図検査におけるピーク時での運動誘発性肺高血圧評価の代わりになる評価基準として、低負荷時での運動誘発性肺高血圧評価の重要性を報告したと発表した。この研究は、同研究センターの心臓血管内科の天野雅史医師、泉知里医師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。
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明らかな症状を認めない一次性僧帽弁逆流症患者では、運動負荷心エコー図検査を用いて運動誘発性肺高血圧を評価することが手術適応を決める上での一助となることが知られている。一方、一次性僧帽弁逆流症患者における運動誘発性肺高血圧と予後の関係を報告した文献は限られており、さらに、高齢者において目一杯(症候限界)まで運動した時点(ピーク時)で著明な肺高血圧の有無を評価することは難しい側面がある。
そこで研究グループは、同センター病院で一次性僧帽弁逆流症に対して運動負荷心エコー図検査を施行した症例を解析。運動誘発性肺高血圧と予後の関係について検討するとともに、その代替パラメーターに関して検証した。
運動負荷心エコー図検査で運動誘発性肺高血圧評価の意義を再確認
同院で一次性僧帽弁逆流症に対して運動負荷心エコー図検査を施行した123例(平均年齢65歳、男性:55%)の患者のうち、運動誘発性肺高血圧(ピーク時三尖弁逆流圧較差:TRPG≧50mmHg)は57例で認めた。運動負荷心エコー図検査後6か月以内に手術した症例は65例で、残りの58例は内科フォローアップの方針となった(Watchful waiting群)。この58例のWatchful waiting群における運動誘発性肺高血圧を認めた群の予後(心臓イベント発生率)は非運動誘発性肺高血圧群と比較して悪く(1年イベント回避率48.1%vs.97.0%)、一次性僧帽弁逆流症患者において運動負荷心エコー図検査を施行し運動誘発性肺高血圧を評価することの意義を再確認した。
さらに、低負荷時のTRPGと安静時の左室e’がピーク時TRPGの独立した規定因子であり、58例のWatchful waiting群において低負荷時TRPG≧35mmHgはピーク時TRPG≧50mmHgと同様に運動負荷心エコー図検査施行後の予後と関連があることが判明した。
弁膜症・心筋症で手術適応考慮の、より簡便なスクリーニング検査に向けて検証を
同研究の結果より、無症候性僧帽弁逆流症患者における手術適応判断において、運動負荷心エコー図検査の施行と運動誘発性肺高血圧症の評価は重要であることが確認された。また、特に高齢者において、ピーク時まで運動せずとも低負荷による運動のみにおける肺高血圧評価にて、無症候性僧帽弁逆流症患者の予後が層別化できる可能性が示唆された。今後、低負荷運動負荷心エコー図検査の意義を他の弁膜症や心筋症でも検証することで、弁膜症・心筋症における手術適応を考える際のより簡便なスクリーニング検査としての運動負荷心エコー図検査の立ち位置を確立する必要がある、と研究グループは述べている。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース