国際的に比較可能なヤングケアラー尺度を用いた実態調査
東京大学医学部附属病院は9月21日、他の国の状況を比較することが可能な日本版ヤングケアラー尺度を作成し、その尺度を用いて国内存在率を調べ、7.4%がヤングケアラーであることがわかったと発表した。この研究は、同病院精神神経科の笠井清登教授、金原明子特任助教らの研究グループと、英国ノッティンガム大学のStephen Joseph博士との国際共同研究によるもの。研究成果は、「Psychiatry and Clinical Neurosciences Reports」に掲載されている。
ヤングケアラーの定義は、国際的には「慢性的な病気や障害、精神的な問題などを抱える家族の世話をしている18歳未満の子どもや若者」とされている。しかし、日本では、必ずしも病気や障害のために限定せず、「家族にケアを要する人がいるために、本来大人が担うと想定されているような家事や家族の世話などを日常的に行っている18歳未満の子どもや若者」としている。
英国では、ヤングケアラーの支援に関する法律が制定されており、先進諸国ではヤングケアラーに関する調査や研究が行われ、その存在率は約5~8%とされている。日本では、日本ケアラー連盟の活動や、研究の共同研究者でもある澁谷智子氏の著書などによって、ヤングケアラーという概念の認識が広まってきた。さらに、厚生労働省と文部科学省は、支援体制の構築について共同で審議しており、政府は法整備を含めて検討を進めている。
日本でヤングケアラーの支援を行うためには、実態調査が欠かせない。これまでに国や自治体が行った調査では日本におけるヤングケアラーの存在率は約4~6%と推定されていた。今後、英国や他の国々での高度な取り組みから学び、日本のヤングケアラー支援を促進するために、国際比較が可能な尺度を用いて、実態調査を実施する必要がある。そこで、英国放送協会(BBC)とノッティンガム大学が共同で実施したヤングケアラー調査で使用された尺度の日本版を作成(日本語に翻訳し、標準化(信頼性と妥当性を検証))することを目的に研究を実施した。
存在率は推定7.4%、標準化されていない尺度で調べた日本の調査結果と概ね同じ
まず、ヤングケアラー尺度日本版(YCS-J paper appendix 1 (Japanese version))を作成した。尺度の項目は次の通りで、選択式で回答を求めた。1)同居家族に病気や障害を抱えている人がいるか、2)いる場合、その人の手助けをしているか、3)その人は家族の中の誰か、4)その手助けが必要である理由、5)同居家族に病気や障害を抱えている人がいるかいないかに関わらず、過去1か月間の手助けの内容・頻度。国際的な定義に則って、1と2を満たす場合、ヤングケアラーと判断する。
さらに、この尺度の一部(項目1、2)を用いて大規模なヤングケアラー存在率調査を行った。首都圏の一つの都道府県における私立全日制中学校・高等学校の団体の協力により、加盟校に通う5,000人の中高生に対して調査を実施したところ、ヤングケアラーの存在率が7.4%と推定された。これは標準化されていない尺度で調べた日本の調査結果と概ね同じ割合だった。
この割合は、同じ基準で調べた英国の結果(22%;ケアを多く行っている人に絞ると7%)よりも低い数字だったが、他のヨーロッパ各国で行われた結果とは類似していた。日本が英国に比べて、ヤングケアラーの存在率が低い理由は明らかではないが、ヤングケアラーの概念が英国ほどは社会で普及しておらず、ヤングケアラーが「ケアをしている」という自覚をもっていない可能性がある。
不安や抑うつが強く、向社会性が高いことも判明
この調査では、ヤングケアラーであるかどうかの質問項目のほかに、不安や抑うつの度合い、向社会性(進んで人を助ける傾向)などについても回答してもらった。その結果、ヤングケアラーは、そうでない人に比べて不安や抑うつ(気分の落ち込みなど)が強いこともわかった。一方、ヤングケアラーは、そうでない人に比べて、向社会性(進んで人を助ける傾向)が高いこともわかった。ただし、横断調査であるため、因果関係の解釈には慎重である必要がある。
ヤングケアラーに対する教育、福祉、保健領域における支援が必要
ヤングケアラーの人は、そうでない人に比べて不安や抑うつが強いことから、ヤングケアラーに対する教育、福祉、保健領域における支援の必要性が示された。「今後は、ヤングケアラー尺度日本版の全項目を活用し、日本のヤングケアラーの実情を詳しく調べ、家族の中の誰に、どのような理由で、どのような種類のケアをしている場合に、心身の負担が強く、支援がより必要なのかを明らかにしていきたい」と、研究グループは述べている。
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・東京大学医学部附属病院 プレスリリース