医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 新型コロナワクチンの「接種時刻」は中和抗体価に影響しないと判明-北大ほか

新型コロナワクチンの「接種時刻」は中和抗体価に影響しないと判明-北大ほか

読了時間:約 3分27秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2022年09月28日 AM10:59

一般成人男女332人を対象に、ワクチン接種と概日リズムの関係を解析

北海道大学は9月27日、モデルナ社製の新型コロナウイルスmRNAワクチンの1回目接種を行った一般成人男女332人について、ワクチン接種時刻とワクチン接種後に産生される新型コロナウイルス()抗体価の関係を参加者の性別、年齢、ワクチン接種からの経過時間、アレルギー症状、既往歴、常備薬の服用、睡眠時間の影響を調整した解析を行い、ワクチン接種後のSARS-CoV-2抗体価がワクチンの接種時刻と関連しないことを初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院教育学研究院の山仲勇二郎准教授、同大大学院医学研究院の横田勲准教授、同大病院血液内科の安本篤史助教、金沢大学大学院医薬保健学総合研究科の森下英理子教授、東北大学加齢医学研究所の堀内久徳教授の共同研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Biological Rhythms」にオンライン公開されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

行動(睡眠覚醒)と生理機能には約24時間を1周期とする概日リズムが存在し、概日リズムは生物時計機構によって制御されている。ヒトを含む哺乳類の生物時計機構は、脳内視床下部視交叉上核に存在する中枢時計と、全身の末梢臓器に存在する末梢時計から成る。近年、概日リズムの分子機構および生理機能に影響するメカニズムが解明されてきている。これまでの研究により、ヒトの生体防御システムである免疫機能にも概日リズムが存在することが判明している。免疫機能の1つである獲得免疫は、特定の抗原を排除する仕組みであり、抗原特異的な抗体を使って病原体を排除する。いわゆるワクチン接種は、弱毒化あるいは不活化した抗原をワクチンとして感染前に接種しておくことで、体内で抗体を産生し、感染後の重症化を予防することができる。

ワクチン接種と概日リズムの関係については興味深い報告がある。例えば、高齢男性を対象に実施された研究では、朝にインフルエンザウイルスに対する不活化ワクチンを接種した場合、午後にワクチンを接種した場合に比べて、接種後の中和抗体価が上昇することが報告されている。さらに、SARS-CoV-2ワクチンについても、医療従事者を対象にした研究で、ワクチン接種時刻と接種後の中和抗体価の因果関係が報告されている。例えば、ファイザー社製の新型コロナウイルスmRNAワクチンの場合は、午前接種よりも午後接種の方がSARS-CoV-2抗体価が上昇、シノファーム社製の新型コロナウイルス不活化ワクチンの場合は、午後接種よりも午前接種の方が、SARSCoV-2抗体価が上昇すると報告されている。

しかし、これまでの研究は、医療従事者を対象とした研究であったため、シフトワークのような不規則な勤務状態に従事していることが概日リズムや睡眠に影響し、ワクチンに対する免疫応答にも影響する可能性が指摘されていた。また、国内の職域接種で主に用いられているモデルナ社製のmRNAワクチンの接種時刻とワクチン接種後のSARS-CoV-2抗体価との関係についても検証されていなかった。

モデルナ社製ワクチンの接種時刻、経過時間などの情報とSARS-CoV-2抗体価の関係を解析

研究グループは今回、2020年7月17日~9月12日まで北海道大学で実施された職域接種で、1回目のワクチン接種を行った北海道大学および小樽商科大学の接種を希望する学生および教職員等を対象に実施された臨床研究「(SARS-CoV-2)ワクチン接種後の抗血小板第4因子(PF4)抗体産生と血栓症発症の頻度の追跡調査研究」を通じて取得されたデータを使用し、モデルナ社製のmRNAワクチンの接種時刻、対象者の年齢、性別、ワクチン接種からの経過時間、アレルギー症状、既往歴、常備薬の服用、睡眠時間とSARS-CoV-2抗体価の関係について解析した。

なお、この臨床研究では、北海道大学職域接種でCOVID-19ワクチン接種を受けた人、2回目のCOVID-19ワクチン接種を受けていない人、同研究の参加に関して同意が文書で得られた人、同意取得時の年齢が20歳以上の男女、以前に採血困難と言われたことがない人を対象に参加者を募り、1回目のワクチン接種から2〜4週間後の期間にSARS-CoV-2抗体価等の測定のための採血、質問票により参加者の年齢、性別、ワクチン接種からの経過時間、アレルギー症状、既往歴、常備薬の服用、睡眠時間について聴取した。

抗体価は20歳代~40歳代に比べ50歳代と60歳代で低下、接種時刻は関連せず

同研究では、SARS-CoV-2に対する中和抗体価(対数変換後)とワクチン接種時刻(午前、午後)の関係を参加者の性別、年齢、ワクチン接種からの経過時間、アレルギー症状、既往歴、常備薬の服用、睡眠時間の影響を調整した線形回帰分析を行った。

線形回帰分析の結果、SARS-CoV-2抗体価は20歳代~40歳代に比べ、50歳代および60歳代では低下していた。一方、ワクチン接種時刻はSARS-CoV-2抗体価と関連しないことを初めて明らかにした。

ワクチンの効果的な接種戦略を考える際の科学的根拠となることに期待

今回の研究により、医療従事者ではない一般成人を対象にモデルナ社製のmRNAワクチンによるSARS-CoV-2に対する中和抗体価が、接種時刻の影響を受けないことを初めて明らかにされた。

「本研究成果は、ワクチン接種をいつ行えばよいのかという疑問に答えるとともに、今後のワクチンの効果的な接種戦略を考える際の科学的根拠となることが期待される」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • トイレは「ふた閉め洗浄」でもエアロゾルは漏れる、その飛距離が判明-産総研ほか
  • AYA世代の乳がん特異的な生物学的特徴を明らかに-横浜市大ほか
  • 小児白血病、NPM1融合遺伝子による誘導機序と有効な阻害剤が判明-東大
  • 抗血栓薬内服患者の脳出血重症化リスク、3種の薬剤別に解明-国循
  • 膠原病に伴う間質性肺疾患の免疫異常を解明、BALF解析で-京都府医大ほか