WNK1/HSN2変異が原因の遺伝性神経障害、大部分の患者で手足の関節変形
東京医科歯科大学は9月26日、遺伝性運動感覚ニューロパチーⅡ型の原因とされる患者由来WNK1/HSN2変異体が、正常なWNK1/HSN2やGSK3βと結合することでその機能を阻害し、下流のシグナル伝達経路を抑えることで、神経分化を阻止することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大難治疾患研究所分子細胞生物学分野の澁谷浩司教授、清水幹容助教の研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」にオンライン掲載されている。
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遺伝性感覚自律ニューロパチーⅡ型は、痛み、温度、触覚などの感覚が失われる常染色体潜性遺伝の遺伝性神経障害であり、大部分の患者が手足の関節が変形する症状を発症する。また、感覚の喪失から傷の痛みを感じることができないため、早期の治療を行わないことが原因で潰瘍を伴うことも知られている。同疾患はWNK1/HSN2遺伝子の変異が原因とされ、多くのWNK1/HSN2変異体が報告されているにも関わらず、その疾患発症への関与については全くわかっていない。そのため、遺伝性感覚自律ニューロパチーⅡ型の発症機構を明らかにし、治療法を確立するためにも、患者由来WNK1/HSN2変異体の機能の解明が急務となっている。
WNK1/HSN2変異体、ドミナントネガティブ変異体として下流シグナルを阻害し神経分化を抑制
今回、研究グループは、WNK1/HSN2変異体の機能を解明するため、遺伝性感覚自律ニューロパチーⅡ型患者で報告されている変異体をマウス神経細胞に発現させた。その結果、神経突起の伸長や神経分化が抑制されることを突き止めた。このとき、WNK1/HSN2変異体は正常なWNK1/HSN2に優先的に結合することでその機能を阻害し、神経分化を抑制することを明らかにした。
また、研究グループは先行研究により、GSK3βがWNK1と共に神経分化を促進することを報告している。WNK1/HSN2変異体はGSK3βにも結合し、その機能を阻害することで神経分化を抑制することを発見した。したがって、WNK1/HSN2変異体はドミナントネガティブ変異体として、神経分化における正常なWNK1/HSN2-GSK3βシグナルの機能を阻害していることがわかった。
遺伝性感覚自律ニューロパチーⅡ型発症機構の解明寄与に期待
これまで、遺伝性感覚自律ニューロパチーⅡ型の原因であるWNK1/HSN2変異体による分子制御機構は全く知られていなかった。今回の研究では、実際の患者で報告されているWNK1/HSN2変異体が、ドミナントネガティブ変異体として機能することで正常な神経分化を抑制することを見出した。WNK1/HSN2変異体の機能が明らかとなったことで、遺伝性感覚自律ニューロパチーⅡ型の発症機構の解明に寄与すると期待される、と研究グループは述べている。
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