医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 複数の出血熱ウイルスに対して強力な抗ウイルス活性を示す化合物を同定-北大ほか

複数の出血熱ウイルスに対して強力な抗ウイルス活性を示す化合物を同定-北大ほか

読了時間:約 3分26秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2022年09月26日 AM11:18

、ラッサ出血熱、南米出血熱などに有効なワクチンや治療薬の開発へ

北海道大学は9月22日、インフルエンザウイルス阻害剤ライブラリーの中から、ラッサウイルス(LASV)、南米出血熱ウイルス等が含まれるブニヤウイルスに対して強力な抗ウイルス活性を有する化合物を発見したと発表した。この研究は、同大人獣共通感染症国際共同研究所の澤洋文教授、大場靖子准教授、佐藤彰彦客員教授、鳥羽晋輔客員研究員らの研究グループによるもの。研究成果は「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

近年、世界ではさまざまな新興・再興ウイルス感染症が流行しており、その多くは人獣共通感染症だ。現在パンデミックを引き起こしている新型コロナウイルス()感染症(COVID-19)のように、これら新興・再興ウイルス感染症の流行は人々の健康のみならず、経済活動にも大きな影響を及ぼす。またエボラ出血熱、ラッサ出血熱、南米出血熱等の熱帯病については、有効なワクチンや治療薬は存在しないものが多数であり、世界的な公衆衛生学上の問題となっている。

同大人獣共通感染症国際共同研究所と塩野義製薬は、2013年より新興ウイルス感染症薬の研究開発について共同研究を実施している。これまで、塩野義製薬では抗HIV薬、抗インフルエンザウイルス薬の新規創薬に成功し、多数の化合物を含む抗ウイルス化合物ライブラリーを保有している。共同研究では、この化合物ライブラリーから新たな新興感染症ウイルス薬を見出すことを目指している。2018年には、シオノギ抗ウイルス薬研究部門を設置し、コロナウイルスをはじめ、さまざまな新興・再興感染症ウイルスに対する化合物の研究開発を展開している。

LCMVおよびJUNV、LASVに対し強力な抗ウイルス活性をもつ化合物を発見

研究では、初期評価として、培養細胞にウイルスを感染させ、ウイルス増殖に伴い出現する細胞変性効果(CPE)を指標として、各化合物のウイルス増殖阻害活性を評価した。約6,000化合物のスクリーニングにより、インフルエンザウイルスのキャップ依存性エンドヌクレアーゼ(CEN)阻害薬の中から、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)、(JUNV)に対して、化合物Bが強力な抗ウイルス活性(LCMV:EC50=4.5nM、JUNV:EC50=2.4nM)を有することを見出した。この化合物は、従来臨床で用いられている対照薬のリバビリン(RBV)に比べ、500~1,000倍も強い抗ウイルス活性を示した。さらに、同属のラッサウイルスに対する薬効評価を実施した結果、化合物BはLASVに対しても強力な抗ウイルス活性を有することを見出した。

CEN活性中心に化合物が結合し、ウイルスRNA複製を阻害

化合物の作用メカニズムを調べるために、薬剤escapeウイルス取得実験を実施したところ、LCMV、JUNVともCEN活性中心を形成するαヘリックス領域にアミノ変異が見られた。これは、バロキサビル マルボキシルに対するescapeインフルエンザウイルスで認められるCEN変異部位と相同する部位であり、この変異を持つインフルエンザウイルス、LCMVの両ウイルスに対して化合物の活性の低下が確認された。以上の結果から、これらの化合物は、ブニヤウイルスの有するCEN活性中心に結合することで、ウイルスRNA複製を阻害することが示唆された。

マウスに化合物B投与でウイルスによる致死改善

化合物Bについて、LCMV感染マウスでの薬効試験を実施した結果、3mg/kgで80%の致死抑効果が見られ、10mg/kg、30mg/kgでは100%の生存効果が認められた。薬剤投与量依存的な血中ウイルス量の低下が見られており、薬剤によりマウス内ウイルス産生が抑制されることで、ウイルスによる致死改善効果が認められることが証明された。

化合物骨格の7位カルボン酸側鎖が抗ウイルス活性に重要

化合物A-Dでは、LCMV、JUNVに強い抗ウイルス効果を示す一方で、抗インフルエンザウイルス薬であるバロキサビル マルボキシルはLCMV、JUNVに抗ウイルス効果が認められなかった(EC50=>1,000nM)。これは、同じCENでもウイルス種によって、活性中心構造が異なることを示している。LCMV、JUNVについて、1,000化合物以上のインフルエンザウイルスCEN阻害薬を調べたところ、強い抗ウイルス活性には、化合物骨格の7位カルボン酸側鎖が重要であることがわかり、実際に、バロキサビルに7位カルボン酸を導入することでLCMV、JUNVの抗ウイルスが強くなることがわかった。化合物と酵素のDockingモデル検証から、LASV、LCMVでは、この7位カルボン酸がCEN活性中心を形成するアミノ酸(R:アルギニン)と相互作用することが推測された。

他のブニヤウイルスに有効な化合物の発見に期待

現在、多くの新興・再興ウイルス感染症に対する有効かつ安全な治療法は確立されていない。今回の結果から、インフルエンザウイルスのCEN阻害剤の中から、CENを持つブニヤウイルスに有効な化合物が見つかり、CEN阻害剤が、広域なウイルス感染症に対し展開できる可能性がわかった。「今後、他のブニヤウイルス(クリミアコンゴ出血熱ウイルス、ハンタウイルス、フニンウイルス以外の南米出血熱ウイルス等)に有効な化合物も見出すことができることが期待され、新興・再興ウイルス感染症新規治療薬の開発研究に大いに貢献できることが期待される」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 血液中アンフィレグリンが心房細動の機能的バイオマーカーとなる可能性-神戸大ほか
  • 腎臓の過剰ろ過、加齢を考慮して判断する新たな数式を定義-大阪公立大
  • 超希少難治性疾患のHGPS、核膜修復の遅延をロナファルニブが改善-科学大ほか
  • 運動後の起立性低血圧、水分摂取で軽減の可能性-杏林大
  • ALS、オリゴデンドロサイト異常がマウスの運動障害を惹起-名大