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再発乳がんの光免疫治療、マウス実験で完全消失に成功-東大ほか

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2022年09月22日 AM11:17

正常組織を傷つけることなく、がんのみにダメージを与える光免疫治療法、治療後の再発が課題

東京大学は9月20日、がんの光免疫治療において、再発腫瘍を完全に消失させる新しい光活性化物質Ax-SiPcを用いた新しい光免疫・抗体ミメティクス治療薬FL2の開発に成功したと発表した。この研究は、同大大学院工学系研究科先端学際工学専攻博士後期課程の金子雄大大学院生、大学院医学系研究科の加藤洋人准教授、アイソトープ総合センターの杉山暁助教、大学院薬学系研究科の山次健三助教、同大名誉教授/先端科学技術研究センターがん・代謝プロジェクトリーダーの児玉龍彦特任研究員、サヴィッド・セラピューティックス株式会社の塚越雅信代表取締役社長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cancer Science」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

近年、早期がんの治療成績は向上している一方、再発と転移を伴う進行がんの死亡者は増加し、有効な治療法の開発が切望されている。がんの主な治療方法である、手術療法(外科的切除や内視鏡的切除など)、化学療法、放射線治療は、がん細胞のみでなく、周囲の正常組織や臓器にも傷害を与えてしまう。このため、正常細胞・組織への傷害は副作用として患者の体に大きな負担を強いることになっている。このようなことから、正常細胞や組織を傷つけることなく、がん細胞のみにダメージを与える治療法の開発が求められている。

近年、この理論に基づいた新しいがん治療法として、近赤外光を使用した光免疫治療法の開発が進められ、切除の難しい進行がんの患者の生活の質を保ちながら実施できる治療として期待されている。光免疫治療は切除の難しい進行がんでも、手術なしに近赤外線の照射によって活性化したがん細胞を殺すことができる。しかし近赤外線は人体内で届く範囲が限られており、治療後の再発が課題となっていた。

傷害する物質をより多く作る治療薬FL2治療、1回実施では5割が再発

光免疫療法は、腫瘍細胞を認識する抗体に光で活性化される化合物(光増感剤)を結合させた薬を使用する。薬の活性化には、腫瘍細胞局所に集まった光増感剤に効率よくエネルギーを与えるために、体の深部に到達できる近赤外光(690nm)を使用する。光照射によりエネルギーを受け取った光増感剤は化学反応を起こし、細胞表面付近で細胞を傷害する物質(一重項酸素)を発生させる。これにより、光増感剤が集積した腫瘍細胞のみを殺すことで、周囲の正常細胞、組織へのダメージをなくした新しいがんの治療法として開発が進められている。

研究グループは、人工的に合成された、製造しやすく腫瘍細胞表面に存在する抗原特異的に結合する抗体ミメティクス薬剤と、人工的に設計された、光を当てると一重項酸素を従来薬より多く作るAx-SiPcを結合させた治療薬「」を開発した。FL2はヒト乳がん細胞に発現しているHER2分子に特異的に結合する。このため、マウス体内へ投与されたFL2はマウスへ移植されたヒト乳がん細胞へ集積する。これまで、マウスにヒト乳がん細胞を移植し成長させ、FL2治療を1回行った場合、肉眼的には腫瘍が消えたように見えても、病理検査ではがん細胞の一部が残存し、5割が再発していた。

乳がん再発マウスに2回治療で10匹全ての腫瘍細胞が完全に消失、免疫系細胞の集合を確認

研究グループは、ヒト乳がん細胞を移植した腫瘍塊(大きさ平均417±88mm3)を持つ10匹のマウスに対し、FL2の投与を行い、光照射による治療を行った。1回目の治療後、全てのマウスで急激に腫瘍塊の大きさが減少し、治療後15日後の大きさの平均は約40mm3となった。しかし、治療30日後、半分の5匹に肉眼的再発が認められた。これら5匹のマウスの再発した腫瘍塊の大きさは治療63日後に平均381±296mm3となったため、1回目と同じ手法で2回目の治療を行い、全例で肉眼的に腫瘍の消失を確認した。さらに1回目の治療後約90日、2回目の治療後約30日目に、10匹全てのマウスの剖検を行い、病理学的にも腫瘍細胞が完全に消失し、治療部分は正常な皮膚の状態へと回復していることを明らかにした。

また、治療によりがん細胞が受けた影響を確認するため、光照射10日後で治癒途中の治療部位の病理学的な解析を行った。そこでは、全ての腫瘍細胞は凝固壊死しており、壊死した腫瘍細胞の周りには免疫系の細胞が集まってきていることを確認した。光免疫療法では光増感剤が集積したがん細胞のみが、光照射により特異的に壊死に至っていることを明らかにした。

光免疫療法により腫瘍免疫を誘導し、進行がんの根治の率を高められれば、増加している進行がんの根治に新たな可能性を与えることになる。現在は転移しやすいマウスの腫瘍を用い、光免疫治療と、コロナ禍で高い有効性の証明された修飾RNAを用いたがんのネオアンチゲンへのワクチンの併用療法の効果を検討中であるという。「今後、FL2を用いた皮膚の悪性腫瘍への臨床開発を進めることで、進行がんに対する新たな治療法の誕生につながることが期待される」と、研究グループは述べている。

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