ALSの経過は個人差が大きく、短期間の臨床試験で治療効果を証明するため工夫が必要
九州大学は9月20日、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の大規模な世界的データベース(the Pooled Resource Open-Access ALS Clinical Trials database, PRO-ACT database)を用いて、さまざまな経過をとるALS患者の%努力肺活量の低下パターンをスコア化し、病状を評価するための新しい方法「FVC-DiP」(Forced Vital Capacity Decline Pattern scale)を開発したと発表した。この研究は、同大病院ARO次世代医療センターの小早川優子助教、戸高浩司教授、同大大学院医学研究院神経内科学分野の磯部紀子教授、山﨑亮准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of the Neurological Sciences」に掲載されている。
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ALSは、大脳および脊髄運動神経の進行性の変性により全身の筋力低下、嚥下・構音障害、呼吸不全をきたす難病。現在、症状の改善や根治を望める治療法はなく、新規治療法の開発が待ち望まれている。日本の患者数は約1万人とされている。
世界中の研究者や製薬企業が効果のある治療法の実現を目指して開発を行っているが、その多くが、新しい治療法を臨床現場に届けるための最終的段階である臨床試験で有効性が証明されず、開発が中止されてきた。ALSの経過は個人差が大きく、臨床試験のような短い期間に治療法の効果を証明するには、病状の評価方法や臨床試験への参加基準の見直し等の工夫が必要であることが指摘されている。
症例ごとにさまざまな速度で低下していく%FVCをパターン別にスコア化
研究グループは、ALSに対する臨床試験の課題を解決するために、病状を評価するための新しい方法の開発に取り組んだ。具体的には、「PRO-ACT database」に含まれる907症例の%努力肺活量のデータを解析し、症例ごとにさまざまな速度で低下していく%FVCをパターン別にスコア化し、「FVC-DiP」を開発した。
1時点の「%FVC」と「発症からの期間」から評価が可能
FVC-DiPの特性を検討した結果、「FVC-DiPのスコアが大きいほど病気の進み具合が遅く、スコアが小さいほど病気の進み具合が速いこと」「同一患者では、自然経過中に%FVCが低下してもFVC-DiPスコアはほぼ一定の値をとること」が明らかになった。この特徴により、これまで数か月の経過で判断していた病気の進み具合を、1時点の「%FVC」と「発症からの期間」から評価することが可能となる。
ALSの特徴をふまえた臨床試験デザイン、治療開発に期待
FVC-DiPを用いることで、病気の進み具合に個人差が大きいALSの特徴をふまえた臨床試験をデザインすることが可能になる。さらに、1時点で病気の進み具合を評価できることから、治療効果がより期待できる早期の段階から臨床試験へ参加可能になることも予想される。「これまでの方法では証明できなかった治療効果を鋭敏に示すことが可能になり、患者の病状にあった新しい治療法の開発が進むことが期待される」と、研究グループは述べている。
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・九州大学 研究成果