頭部MRI画像から、脳卒中後てんかんに特徴的な所見を検討
国立循環器病研究センターは9月13日、脳表シデローシスが最も脳卒中後てんかんのリスクとして重要であり、既存の脳卒中後てんかんのリスクスコアに含まれる皮質病変や脳卒中重症度といった因子に脳表シデローシスの有無を追加で投入することで脳卒中後てんかんのリスク推定に有用であることを明らかにしたと発表した。この研究は、同研究センター脳神経内科の猪原匡史部長、同科の田中智貴医長、福間一樹医師、猪原匡史部長らの研究グループが、国内多施設共同研究(PROgnosis of Post-Stroke Epilepsy:PROPOSE)として行ったもの。研究成果は、「Annals of Neurology」オンライン版に掲載されている。
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超高齢社会に突入した日本で、高齢者てんかんが問題となっている。脳卒中後てんかんは、高齢者てんかんの原因の約半数を占める重要な疾患だ。これまでに年齢、脳卒中の重症度や脳卒中病変の部位(皮質領域)などの因子が脳卒中後てんかんのリスクとなると報告されていたが、脳卒中病巣の一体何が最大のリスクとなるのかは不明だった。そこで、研究グループは、頭部MRI画像における脳卒中病巣を詳細に検討し、脳卒中後てんかんに特徴的な所見を調査した。
今回の研究では、2014~2018年の間に同院に脳卒中後てんかんで入院した症例と、同時期に急性期脳卒中で入院、その後に脳卒中後てんかんを発症していない症例(脳卒中発症より最低3か月以上観察)を比較し、頭部MRIでの画像的特徴について比較検討を実施。脳梗塞群、頭蓋内脳出血群に分けて、既報告の脳卒中てんかんリスクスコア(脳梗塞:SeLECTスコア、頭蓋内脳出血:CAVEスコア)と研究グループが今回新たに作成したリスクスコアの有用性について検討を行うため、対象群をランダムにトレーニングデータとテストデータとして7対3に分割。トレーニングデータにてスコアの有用性を確認の後、テストデータにてその結果の正確性について検証した。
脳表シデローシスが脳卒中後てんかん群で有意に高率に見られ、最大のリスク因子
研究の結果、脳卒中後てんかん180症例(年齢中央値74歳、男性62.8%)とコントロール1,183例(年齢中央値74歳、男性62.8%)の比較では、既報告にある皮質病変、脳卒中病巣の大きさ、出血性脳卒中、重症、早期発作歴ありに加えて、脳表シデローシスの存在が、脳卒中後てんかん群で有意に高率に見られ、最大のリスク因子であることが判明した(48.9% vs. 5.7%, P <0.0001)。
年齢、性別、背景疾患などのさまざまなグループで分けて検討した場合も、くも膜下出血群の場合を除き有意に脳卒中後てんかんに強い関連を示したという。
脳表シデローシスを加えた新スコアモデル、脳卒中後てんかんの的確な診断に有用
続いて、既存の脳卒中後てんかんリスクスコア(脳梗塞:SeLECTモデル、頭蓋内脳出血:CAVEモデル)に、今回の研究で明らかとなった最大のリスク因子・脳表シデローシスを加えた新スコアモデル(脳梗塞:SeLECT-Sモデル、頭蓋内脳出血:CAVE-Sモデルと命名)を作成し、トレーニング群とテスト群でそれぞれ比較。その結果、脳梗塞と頭蓋内脳出血のいずれにおいても新スコアモデルが脳卒中後てんかんの的確な診断に有用であることが判明した(NRI:SeLECT-Sスコア0.63[p=0.004]、CAVE-Sスコア 0.88[p=0.001])。
脳卒中後てんかんのリスクモデルとして世界中で広く使用されていくことに期待
脳表シデローシスは脳出血のリスクバイオマーカーとしては知られていたが、同研究では、脳卒中後てんかん発症の最大のリスク因子であることを世界で初めて明らかにした。この新知見が脳卒中の日常診療に組み込まれ、SeLECT-Sモデル、CAVE-Sモデルが日本発の脳卒中後てんかんのリスクモデルとして世界中で広く使用されていくことが期待される、と研究グループは述べている。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース