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早期アルツハイマー病患者に対するLIPUS治療の安全性確認、有効性を強く示唆-東北大

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2022年09月20日 AM11:02

2018年から東北大病院で実施した世界初の医師主導治験の結果

東北大学は9月16日、早期アルツハイマー病の患者に対し、(low-intensity pulsed ultrasound:LIPUS)治療の探索的治験を実施し、安全性が確認され、有効性を強く示唆する結果が得られたことを発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科循環器内科学分野の下川宏明客員教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Tohoku Journal of Experimental Medicine」に掲載されている。なお、このアルツハイマー病に対するLIPUS治療機器は、9月5日付けで厚生労働省の「」の対象品目に指定された。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

下川客員教授は、2001年から音波が生体に与える自己治癒力の活性化作用に着目し、まず、低出力衝撃波に血管新生作用等の治療効果があることを示し、重症狭心症に対する低出力体外衝撃波治療を開発した。この治療は、日本では2010年に先進医療Bに指定され、これまでに世界25か国で1万人以上の重症狭心症患者の治療に使用され、有効性と安全性が確認されている。

研究グループは、2009年から超音波を用いた治療法の開発に着手し、LIPUSが、低出力衝撃波と同様の血管新生作用を有し、より安全であることを示した。このLIPUS治療が重症狭心症の治療に有用であることを示した後、さらに、2014年から認知症の治療への応用も開始。2018年にLIPUS治療がアルツハイマー病および脳血管性認知症の2つのマウスモデルで有効で安全であること、そしてその作用機序が血管拡張因子である脳内の一酸化窒素(NO)を増加させることであることを明らかにしている。動物実験において、NOが脳内で低下していることが認知機能低下の原因になっていることが示されており、下川客員教授らの研究グループは、LIPUS治療が、微小血管の内皮細胞において内皮型一酸化窒素合成酵素(endothelial NO synthase, eNOS)の発現を亢進させ、結果的にNOの産生亢進を介して微小循環障害を改善させることを証明し、動物モデルでの有効性を示した。

この基礎研究成果を基に、日本医療研究開発機構(AMED)の革新的医療シーズ実用化研究事業に採択され、2018年から、東北大学病院において、早期アルツハイマー病の患者を対象に、世界初の超音波治療の医師主導探索的治験を実施した。

特殊な条件のパルス波超音波を用い20分間の全脳照射、間隔を置いて複数回

この新規治療は、超音波を利用して患者の自己治癒能力を活性化させる画期的な治療法。具体的には、特殊な条件のパルス波超音波を用い、ヘッドギア型のプローブを両側のこめかみに装着し、20分間の全脳照射を5分間の休憩をはさんで計3回、合計、60分間行う。60分間の治療を隔日で3回実施し、これを治療期間1クールとした。

探索的治験では、主に安全性を確認するロールイン治験(Roll-in trial)と有効性と安全性を検討するランダム化比較試験(RCT trial)を行った。ロールイン治験は1クール、ランダム化比較試験は3か月の間隔を置いて合計6クール、計1年半の治験を行った。同治験の対象は早期アルツハイマー病(+軽症アルツハイマー病)の患者だった。ロールイン治験では5人全員が問題なく1クールを終了した。ランダム化比較試験では、当初4人の患者を登録する予定だったが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響のため、PMDAの了解を得て、22例までで登録を終了した。この22例は登録時に無作為に2群に分けられ(各群11例)、LIPUS治療群について10例が治験を完了し、プラセボ群については5例が追跡を完了した。評価は、治療効果を認知機能の総合的な指標として頻用されている指標の一つであるADAS-J cogスコアを用いた。

LIPUS群の50%で72週目のADAS-J cogスコア改善、脳構造に対する副作用認めず

その結果、2群間の認知機能の差が経時的に大きくなっていく傾向が認められた。主要評価項目である72週目の両群間の差は症例数が少なくP=0.257と有意ではなかったが、両群40例であれば有意差が検出できると推定された。また、ベースラインからのADAS-J cogが悪化しないか、むしろ改善した症例を「有効例(Responder)」と定義して評価すると、72週目におけるその割合は、LIPUS群で50%、プラセボ群で0%であり、P=0.053だった。また、両群とも、脳MRI等で検討した脳の構造に対する副作用は1例も認められなかった。

今後、症例数を大幅に増やした検証的治験を

今回行われた探索的治験において、LIPUS治療は早期アルツハイマー病患者に対して安全であり、また有効である可能性が強く示唆された。さらに興味深いことに、治療回数が増えるにつれて有効例(Responder)の割合が増加し、LIPUS治療の効果が長期に蓄積して、認知機能の悪化を遅らせるだけではなく、むしろ改善させる可能性が示唆された。

「今後、症例数を大幅に増やした次の検証的治験で再確認する必要がある。また、LIPUS治療は、基礎研究において、アルツハイマー病だけでなく、脳血管性認知症にも有効で安全であることが示されている。LIPUS治療は、さまざまな病型の認知症患者における認知機能を改善させることができると期待される」と、研究グループは述べている。

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