2014~2020年に新潟市内で子宮頸がん検診を受けた20~26歳の女性4,553人対象に調査
新潟大学は9月12日、子宮頸部前がん病変(細胞診異常)に対してHPVワクチンがどの程度の予防効果を示すかを検討した結果を発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科産科婦人科学分野の工藤梨沙助教、榎本隆之特任教授、関根正幸准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cancer Science誌」に掲載されている。
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日本でHPVワクチン接種の公費助成が開始された2010年時点で接種対象年齢であった女性は、現在20歳代の半ばを迎えている。上皮内がんも含めた子宮頸がんのピークが30歳代にあることを踏まえると、子宮頸部前がん病変を示唆する細胞診異常が増える世代でもある。この世代で前がん病変を予防することが、将来の子宮頸がん予防につながると期待される。
研究グループは先行研究より、HPVワクチンの接種を受けた20~22歳の女性において、HPV16/18型感染に対する高い予防効果と、HPV31/45/52型に対しての有意な予防効果が認められることを報告。これまで子宮頸部前がん病変に対するHPVワクチンの予防効果を、性的活動性を加味して解析した日本人女性を対象にした報告はなかった。
そこで今回の研究では、2014~2020年に新潟市内で子宮頸がん検診を受けた20~26歳の女性4,553人で、HPVワクチン接種歴と性的活動性(初交年齢、性交経験人数)を解析対象とし、アンケート調査を実施。ワクチン接種歴は、自治体接種記録でも確認した。対象のうち3,167例(69.6%)にHPVワクチンの接種歴があり(ワクチン接種群)、1,386例(30.4%)は接種歴が確認できなかった(ワクチン非接種群)。
HSIL以上の細胞診異常に対するワクチン有効率64%、初交前接種では78.3%
ワクチン接種群とワクチン非接種群で子宮頸部細胞診異常率を比較した結果、軽度扁平上皮内病変(ASC-US)以上の細胞診異常率は、ワクチン非接種群の7.3%に対して、ワクチン接種群では4.7%と有意に低く(P<0.01)、高度扁平上皮内病変(HSIL)以上の細胞診異常率は、ワクチン非接種群の0.9%に対してワクチン接種群では0.3%と有意に低く(P=0.013)、HSIL以上の細胞診異常に対するワクチン有効率は64%であることが示された。また、初交前接種者に限定して性的活動性で調整を行うと、ワクチン有効率は78.3%に高まったとしている。
さらに、細胞診異常とHPV感染の関連を詳しく調べたところ、初交前接種者においてはワクチンの主標的型であるHPV16/18型関連の細胞診異常者を認めていなかった。
「ワクチン接種後も子宮頸がん検診を受ける必要」など啓発を
今回、研究グループは、実臨床データを用いて、日本人女性におけるHPVワクチンの子宮頸部前がん病変(細胞診異常)に対するHPVワクチンの有効性を実証した。子宮頸がんの前がん状態である細胞診異常に対する予防効果が確認されたことは、ワクチンを接種した女性に対しての朗報になる。さらに、ワクチンを初交前に接種することが極めて重要であることも、対象女性に対する大きなメッセージとなったとしている。
同研究グループの研究成果をもとに、厚生労働省は2022年4月より12~16歳女子に対するHPVワクチン接種の積極的勧奨を再開した。これからHPVワクチンの接種を検討する女性に対しては、このような科学的根拠をもとに、ワクチンの効果を強くアピールしていく必要がある。また、HPVワクチンの接種を既に受けた女性に対しては、「ワクチンにより子宮頸部細胞診異常の予防効果はあるものの、ワクチンを接種した女性でも子宮頸がん検診は必ず受ける必要がある」というメッセージを伝えていくことも必要だとしている。
今後NIIGATA studyでは、キャッチアップ接種の有効性検証や、HPV感染に対する30歳までの長期予防効果を解析する予定。国民の皆様に向けてHPVワクチンに関する科学的データを発信し続ける予定だ、と研究グループは述べている。
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