2回接種後の抗体価は健常人の約3分の1、3回接種後は?
横浜市立大学は9月13日、新型コロナウイルスワクチン(ファイザー製)3回目接種後に獲得される抗スパイクタンパク質抗体価について、高リスクの血液透析患者群と健常人(医療スタッフ群)で比較し、ワクチン3回目接種1か月後の抗スパイクタンパク質抗体価が、2回目接種後に比べて大幅に上昇し、健常人と同レベルまで上昇したことがわかったと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科循環器・腎臓・高血圧内科学の金井大輔医師(大学院生)、田村功一主任教授、涌井広道准教授らと、医療法人社団厚済会の大西俊正博士、山口聡博士、三橋洋医師、花岡正哲医師、花岡加那子氏、渡邉文雅渡氏らが共同で行ったもの。研究成果は、「Kidney International Reports」に掲載されている。
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新型コロナウイルスメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化率を低下させ、死亡率を減少させる効果がある。進行した慢性腎臓病をもっている人、特に血液透析を受けている人は、COVID-19の重症化や死亡の危険性が高いことが国内外で報告されているが、ワクチンを接種することで、重症化率や死亡率を下げることができる。
日本国内では、血液透析を受けている人に対してワクチン接種が強く推奨されてきたが、進行した慢性腎臓病をもつ人は尿毒素の影響で免疫力が低下しており、ワクチンに対する免疫応答が悪く抗体を獲得しにくいとされている。研究グループの先行研究で、2回のワクチン接種後に獲得できる抗体価は、血液透析患者では健常人と比べて3分の1程度と有意に低値だったことがわかっている。
日本より先に3回目のワクチン接種を開始した海外からの報告では、血液透析患者や免疫抑制薬内服者のように2回目までのワクチンに対する免疫応答が悪かった人でも、3回目のワクチン接種後に有意な抗体価の上昇を認めたとされている。しかし、健常人と血液透析患者で3回目接種後の抗体価を比較した研究はほとんどなく、日本を含めて東アジアからの報告はなかった。
そこで研究グループは、日本人の血液透析を受けている人(血液透析患者群)と医療スタッフ(コントロール群)を対象に、新型コロナmRNAワクチン2回目接種時から3回目接種1か月後までにおける抗スパイクタンパク質抗体価の経時的な推移を比較した。また、ワクチンに対する反応性の変化を3回目のワクチン接種前後で検討した。
3回目接種1か月後の抗体価、血液透析患者群と医療スタッフ群で差なし
医療社団法人厚済会の関連透析施設(上大岡仁正クリニック、文庫じんクリニック、金沢クリニック、追浜仁正クリニック)では、通院している血液透析患者と勤務している医療スタッフのうち、2回目のワクチン接種を完了し、抗スパイクタンパク質抗体検査を希望した者に対して、無料で(抗体検査費用の全額を医療社団法人厚済会が負担)抗体検査が提供されていた。結果は各被検者に通知され、診療録などに記録されており、3回目のワクチン接種後も希望者に対しては継続して検査の機会を設けていた。研究グループは、診療録などから情報を収集し解析を行った。
血液透析患者群350人、医療スタッフ群130人のデータを解析したところ、2回目接種6か月後までの抗体価は、血液透析患者群は医療スタッフ群に比べて約3分の1と有意に低値だった。しかし、3回目接種1か月後の抗体価は血液透析患者群と医療スタッフ群で差を認めなかった(2万4,500 AU/mL vs. 2万AU/mL)。従来、血液透析患者は尿毒素の影響で新型コロナワクチンに対する免疫応答が悪く、健常人と比べると獲得される抗体価は有意に低くなることが知られていたため、予想に反する結果だった。
2回目接種で低反応の人ほど3回目接種後に抗体価の上昇比が大きい
また、2回目のワクチン接種に対する反応性を抗体価によって3群(高反応群[7,021AU/mL以上]、低反応群[50以上7,021AU/mL未満]、無反応群[50AU/mL未満])に分け、3回目接種後の抗体価上昇比を比較した。その結果、血液透析患者では高反応群は3.3倍、低反応群10.2倍、無反応群90.8倍であり、医療スタッフでは高反応群は2.0倍、低反応群3.7倍であり、両群共に2回目接種に対する反応性が低い人の方が3回目接種後に抗体価の上昇比が大きいことがわかった。
「ワクチンに対する免疫応答の天井」の存在を示唆
血液透析患者は健常人に比べて、ワクチンに対する免疫応答が悪く、獲得できる抗体価が低いと考えられていた。しかし、今回の研究で、血液透析患者でも新型コロナmRNAワクチンを3回接種することで、健常人と同レベルまで抗体価を上昇させられることが明らかになった。しかし、ワクチンの適切な接種間隔や他のワクチンでも同様な反応が得られるかなどは不明だ。
また、研究では2回目の接種で高反応を示した群は3回目接種で抗体価の上昇比が最小であり、「ワクチンに対する免疫応答の天井(ceiling of immune response)」の存在が示唆された。海外の報告では、4回目の新型コロナmRNAワクチン接種を受けた健常人の抗体価は3回目接種後と比べて軽度の上昇に留まっている。2022年8月時点で、4回目ワクチン接種後の日本人における抗体価の推移に関する報告は公表されておらず、血液透析患者においてもどのような傾向があるのかは不明だ。
「今後、さらなる研究によって、血液透析患者において新型コロナワクチン接種による免疫獲得についての知見が深まり、ワクチンを接種すべき回数、接種の間隔や時期などに関して、より適切なプロトコールの作成や施策へ反映されることが期待される」と、研究グループは述べている。
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・横浜市立大学 プレスリリース