熱ストレス関連アーティファクトを極力抑え、肝星細胞を高効率に単離したい
大阪公立大学は9月12日、肝がんを伴う高度脂肪肝から肝星細胞を単離する方法を開発し、これまで解析されていなかったがん微小環境における肝星細胞の1細胞レベルの性質変化を明らかにしたと発表した。この研究は、同大大阪公立大学大学院医学研究科病態生理学の大谷直子教授、山岸良多助教、程禕特任助教、肝胆膵病態内科学の河田則文教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cellular and Molecular Gastroenterology and Hepatology」にオンライン掲載されている。
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がんの組織はがん細胞そのものだけでなく、肝星細胞などさまざまな種類の細胞種が集まってがん微小環境を構成している。がんの進展にはがん微小環境の変化が重要であるが、肝がんの場合、腫瘍部に存在する肝星細胞から分泌される因子が抗腫瘍免疫を抑制し、肝がんを進展させることを研究グループは先行研究で報告し、肝星細胞の重要性を示してきた。したがって、肝がんの特性を理解するには、脂肪肝を素地とする腫瘍部を含めさまざまな状態の肝臓から、肝星細胞を単離する方法を開発し、微小環境における肝星細胞の性質を解析する必要がある。
近年、シングルセルRNAシーケンス解析の手法が発達し、1細胞レベルでの細胞の性質解析が可能となっている。これまで、マウスの正常肝から肝星細胞を単離する方法は報告されていたが、内臓脂肪を多く蓄積した肥満マウスの脂肪肝や、脂肪肝にともなう肝がん部からの肝星細胞の高効率単離法は開発されていなかった。また、細胞単離時に使用する酵素処理を37度で実施すると、熱ストレス関連遺伝子が有意に発現上昇し、アーティファクトとなることも報告されていた。そのため、熱ストレス関連アーティファクトを極力抑える手法が求められていた。
還流ルートの確保や低温下での細胞単離により問題を克服
脂肪肝を呈する肥満マウスでは内臓脂肪が高度に蓄積しており、下大静脈が内臓脂肪により、非常に見えにくいため、正常マウス肝から肝星細胞を単離する場合に、還流に使用する下大静脈からの還流ルートの確保が非常に困難である。そこで、研究グループは高度肥満マウスでも確実に還流ルートを確保できる門脈を介するルートを用いることで、この点を克服した。
また、熱ストレス関連遺伝子が有意に発現上昇する37度での酵素処理はアーティファクトの遺伝子発現を含んでしまう危険性があるため、近年、低温の6度で細胞単離したシングルセルRNAシーケンス解析がいくつかの論文で推奨されている。この点については、使用するコラゲナーゼなどの組織の分解酵素は、肝臓においては運よく6度の条件でも機能した。ただ、肝腫瘍部においては、類洞構造が崩れており、還流操作では、組織に酵素液が行き渡らないため、組織をハサミでミンスすることで、酵素を反応させた。
密度勾配遠心分離により得た分画より、CD49a陽性細胞の単離に成功
次に、肝星細胞を多く含む細胞分画を得るため、さまざまな密度勾配液の濃度を変えて密度勾配遠心分離を行った。その結果、ナイコデンツを用いた密度勾配液が13%の濃度で遠心分離を行った場合に、肝星細胞が最も多い分画となった。この分画を用いて、免疫細胞と血管内皮細胞をその表面分子を利用して除いた細胞集団において、シングルセルRNA-seq解析を行った。しかし、この方法では、免疫細胞と血管内皮細胞は排除できているものの、肝実質細胞や肝がん細胞が混入していた。そこで、シングルセル解析の結果から、肝星細胞に特異的な細胞表面分子、CD49aを同定し、免疫細胞、血管内皮細胞を除いた細胞集団の中から、CD49a陽性の細胞を、セルソーティングの手法で単離することで、高純度に肝星細胞を単離することに成功した。この方法で、別の遺伝的肥満マウスモデルの肝星細胞や、ヒトの肝がん組織における肝星細胞も単離することが可能となった。
「今後この手法を用いて、さまざまな脂肪肝モデルマウスやヒトの肝腫瘍組織から肝星細胞を高効率に単離することが可能となり、がん部や正常の肝組織特異的な肝星細胞の性質が明らかになることが期待される。それにより、これまで十分に解析されていなかったがん微小環境における肝星細胞の1細胞レベルの性質変化が明らかになり、将来的には、がん予防や治療につながる分子標的の同定につながることが期待される。」と、研究グループは述べている。
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