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認知症患者のiPS細胞から、病理を再現できる脳オルガノイド作製に成功-慶大

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2022年09月14日 AM10:47

神経変性の進行状態を再現できるiPS細胞由来脳オルガノイドは有望なアプローチ

慶應義塾大学は9月9日、iPS細胞から脳オルガノイドの作製方法を改良し、(AD)患者由来iPS細胞から作製した脳オルガノイドにおいて、ADの主要な病理の一つであるアミロイドプラーク様の構造を再現することができたと発表した。この研究は、同大医学部生理学教室の岡野栄之教授、嶋田弘子特任講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cell Reports Methods」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

これまでに、認知症モデルマウスから多くの知見が得られているものの、疾患モデルマウスが必ずしもヒトの病態を反映しているわけではないという問題点がある。一方で、病理解剖による剖検脳組織は貴重な検体であるものの、神経変性が起こった後の状態を示しており、さらには患者の脳組織へのアクセスは限られていることが認知症研究の課題になっている。これらに対しiPS細胞から作れる脳オルガノイドは、ヒト脳を模倣した3次元の構造体であり、神経変性が進行している状態を再現できる可能性があるため、認知症研究を進めるための有望なアプローチである。脳オルガノイドは、複数の細胞種から成り神経細胞の成熟度が高いことなどから、将来、動物モデルに代わる疾患モデルとしての応用が期待されている。そこで研究グループは、家族性AD患者由来iPS細胞から脳オルガノイドの作製を試みた。

培養液中のFGF2の濃度を調整し、フィーダーフリーでの分化誘導効率を安定化

iPS細胞の維持には、フィーダー細胞との共培養が必須とされてきた。ところが近年、フィーダー細胞を用いない、維持操作が簡略化されたフィーダーフリー(ff)iPS細胞が主流になってきた。ff-iPS細胞を用いると、脳オルガノイドへの分化誘導を開始する際に、フィーダー細胞が持ち込まれないという利点がある。しかし、ff-iPS細胞からの脳オルガノイドの作製は効率が低く、また、培養バッチ間における作製効率の差が大きいことが問題となっていた。そこで今回の研究では、ff-iPS細胞から脳オルガノイドを効率よく作製するために、iPS細胞の維持に必須な因子であるFGF2の濃度に着目した。培養液中のFGF2の濃度を、通常の10分の1程度の濃度に下げて脳オルガノイドへの分化誘導を開始したところ、脳オルガノイドの前段階にあたる胚葉体の形成効率が安定し、多くの神経上皮構造ができるようになった。このようにして作製した神経上皮構造から神経細胞、アストロサイト、さらにオリゴデンドロサイトといった生体脳を構成する種々の細胞を含む脳オルガノイドを作製することができた。

変異型タウタンパク質を発現させ、タウオパチー患者で見られる凝集体構造の再現にも成功

この方法を用いて、AD患者由来iPS細胞から脳オルガノイドを作製したところ、培養120日目のAD患者由来脳オルガノイドにおいて、βアミロイドからなるアミロイドプラーク様の構造が観察された。しかしながら、タウの凝集までは観察することができなかった。

そこで、脳オルガノイドにアデノ随伴ウイルス(AAV)をガラス針で注入して、タウオパチー患者で見られる変異(P301L)を持つタウタンパク質を過剰発現させた。その結果、免疫染色によりタウ凝集体の存在が示され、それらが界面活性剤に対して不溶性を獲得していることから、タウオパチー患者脳でのタウ凝集体と同様の生化学的性質を持つことが示された。さらに、この凝集体の免疫電子顕微鏡観察により、タウ線維構造の形成が認められ、タウオパチー患者で見られる凝集体構造を脳オルガノイド内で再現することに成功した。

今回研究グループは、脳オルガノイドの作製方法を改良し、脳オルガノイドへのAAV注入方法を確立して、従来のタウオパチーモデル細胞よりも、タウオパチー患者で見られるタウ凝集に更に迫る、タウオパチーモデル脳オルガノイドを作製することができた。「作製した認知症モデル脳オルガノイドは、認知症病態メカニズムの解明や、創薬スクリーニングや創薬候補の検証に応用できるヒト細胞モデルとして、有用な基盤技術になるものと期待される」と、研究グループは述べている。

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