欧米では野菜・果物の摂取量が多いと死亡リスク低下、日本では?
国立がん研究センターは9月8日、全国の40~69歳の男女約9万5,000人を追跡調査し、果物・野菜摂取量が少ないグループに比べ、果物摂取量が多いグループでは全死亡リスクが約8~9%低く、心臓血管死亡リスクが約9%低く、野菜摂取量が多いグループでは約7~8%低いことがわかったと発表した。この研究は、同センターの多目的コホート研究(JPHC研究)として行われたもの。研究成果は、「The Journal of Nutrition」に掲載されている。
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果物と野菜は、ビタミン、ミネラル、食物繊維、カロテノイド、ポリフェノールなどが豊富であり、主に欧米人で行われた前向きコホート研究では、果物や野菜の摂取量が多いと全死因による死亡や循環器疾患による死亡のリスクが低いことが報告されている。一方、アジア人は、食習慣、その他の生活習慣、遺伝的背景が欧米人と異なり、野菜や果物の摂取と死亡リスクとの関係はまだよくわかっていない。
全国の一般住民約9万5,000人を約20年間追跡調査
今回の研究は、平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、東京都葛飾区、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の11保健所(呼称は2019年現在)の地域に在住だった40~69歳の人のうち、研究開始から5年後に行った食事調査票に回答し、がん、循環器疾患、肝疾患になっていなかった約9万5,000人が対象。平成30年(2018年)まで追跡し、果物および野菜の摂取量と全死因死亡率および特定原因による死亡率との関連を検討した。
妥当性の確認された食物摂取頻度調査票から果物や野菜摂取について、一日当たりの摂取量を算出し、グループごとの人数が均等になるように5分位でグループ分けをした。それぞれ果物・野菜摂取量が最も少ないグループ(第1・五分位)を基準として、その他のグループにおけるその後の全死亡・がん死亡・心血管死亡・呼吸器疾患死亡のハザード比を算出した。分析にあたっては、年齢、性別、居住地域、体格指数(body mass index: BMI)、高血圧既往の有無、糖尿病既往の有無、身体活動量、喫煙状況、飲酒状況、独居状況、婚姻状況、就労状況、食生活の影響を統計学的にできるだけ取り除いた。
約20年間の追跡調査中に、2万3,687人が死亡した。内訳は、がん死亡が8,274人、心血管死亡が5,978人、呼吸器疾患死亡が1,871人だった。
果物の摂取量が多いと全死亡リスクが低い
男女合算した全体のコホートでは、果物摂取量が最も少ないグループと比較して、多いグループでの全死亡ハザード比は第4・五分位0.91(95%信頼区間 0.87–0.95)、第5・五分位0.92 (0.88–0.96)だった。原因別死亡では、果物摂取量が少ないグループと比較して、多いグループでの心血管死亡ハザード比は第4・五分位0.87(95%信頼区間 0.79–0.94)、第5・五分位0.91(0.83–0.99)だった。
また、男女別の解析において、男女ともに果物摂取と全死亡との間に負の関連を認めた。男性において、果物摂取と呼吸器死亡に負の関連を認めたが(第5・五分位:ハザード比0.74;95%信頼区間 0.61-0.90)、女性は、心血管死亡との負の関連を認めた(第5・五分位:ハザード比0.84;95%信頼区間 0.74-0.96)。
野菜も摂取量が多いと全死亡リスクが低い
野菜摂取量の男女別の解析では、統計学的に有意ではなかったものの、野菜摂取量の多いグループで全死亡のハザード比が低い傾向を認めた。男女合算した全体のコホートでは、野菜摂取量が少ないグループと比較して、多いグループでの全死亡ハザード比は第4・五分位0.92(95%信頼区間 0.88–0.97)、第5・五分位では0.93(0.89–0.98)であり、野菜摂取量が多いと全死亡リスクが低いという結果が得られた。
今回の結果から、「野菜300g以上、果物140g以上摂取」が望ましいと推定
果物・野菜摂取量が少ないグループに比べ、果物摂取量が多いグループでは全死亡リスクが約8~9%低く、心臓血管死亡リスクが約9%低く、野菜摂取量が多いグループでは約7~8%低いことがわかった。この結果は、多くの先行研究の結果と同様だった。
日本では、食事バランスガイド(農林水産省・厚生労働省)において、1日350g以上の野菜摂取と1日200g程度の果物摂取が推奨されており、「健康日本21」(第2次)でも1日350g以上の野菜摂取が目標とされている。今回の研究では、野菜摂取量や果物摂取量の第4・五分位と第5・五分位の全死亡のハザード比が同程度で、摂取量が多いほどリスクが下がるという結果ではなかった。研究で用いた食事摂取頻度調査票から摂取量を正確に推定することは困難であるが、この結果を、一部の集団で行われたより詳細な食事記録の摂取量にあてはめて推定すると、野菜は300g以上、果物は140g以上摂取することが望ましいと考えられる。
欧米人とアジア人の人種差についてさらなる検討が必要
一方、欧米を中心とした過去のコホート研究では、野菜や果物の摂取は、がん死亡や呼吸器疾患死亡の低下とも関連を認めていたが、今回はそれらの関連を認めなかった。今回の研究では呼吸器疾患死亡が少なかったために、野菜・果物摂取量と呼吸器疾患死亡との関連を認めなかった可能性がある。また欧米人と比較して、がん罹患率が異なることや、アジア人は、がんの原因に感染症が多いことが、野菜や果物の摂取とがん死亡との関連が認められなかった理由と考えられた。中国のコホート研究でも同様に野菜・果物摂取とがん死亡の関連が認められていない。このことから、野菜や果物の摂取と死亡リスクとの関連における人種差についてさらなる検討が必要と考えられた。
研究の限界点として、約20年間の追跡期間中に起こりうる野菜や果物の摂取量の変化は考慮できていないこと。また、解析において、参加者の社会経済的状況等を十分に考慮に入れることができず、未測定の交絡因子の影響を除き切れていない可能性があることを挙げている。そうした上で、「今回の結果を確かめるにはさらなる研究が必要だ」としている。