ハンマロビクス運動はリズムとタイミングを要する
東京医科歯科大学は9月7日、元ハンマー投げ選手の室伏広治氏が考案した「ハンマロビクス運動」を行っている最中の筋活動を計測し、足部および体幹筋群の活動が高まることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大スポーツサイエンス機構の室伏広治特命教授、柳下和慶教授、早稲田大学スポーツ科学学術院の金岡恒治教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。
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室伏広治教授は、ハンマー投げ選手時代に、安定した状態で単純なバーベルを使ったスクワット運動だけでは、トレーニング効果を十分に得ることができないと考え、パラメータ励振理論と不安定要素を取り入れたハンマロビクス運動を開発した。具体的には、競技用ハンマーをバーベルの両端に取り付け、ハンマーを振り子運動させながら不安定要素を作り出す、リズムとタイミングを要する運動である。
これまで、トレーニングに不安定要素を取り入れるためウォーターバッグやサンドバッグ等を使用した運動方法が、体幹筋を中心とした筋群の活動を高めることが報告されてきた。足部の筋群に関しては、Short foot exerciseやタオルギャザリングのような足趾や足を積極的に動かすトレーニングにより、足のアーチを支える筋が活動することが報告されている。一方、ハンマロビクス運動中の筋活動に関しては、まだ研究がなされていなかった。そこで研究グループは、ハンマロビクス運動中の足部および体幹筋群の活動を解明することを目的とした研究を実施した。
等尺性スクワットとハンマロビクス運動中の筋活動を比較
研究グループは、12人の健常男性を対象に表面筋電図を用いて運動課題中の筋活動量を分析した。運動課題は、通常の姿勢を保持した等尺性スクワットと、ループ状にしたワイヤーを介してバーベルに取り付けた両端のハンマーを同じタイミングで前後方向に揺らすハンマロビクス運動とした。各運動課題中の姿勢はゴニオメータにより、試技ごとに膝関節が90度で一定となる様に規定した。各運動課題中の下肢・体幹筋群(母趾外転筋、前脛骨筋、後脛骨筋、長腓骨筋、大腿直筋、大腿二頭筋、半腱様筋、大殿筋、多裂筋、内腹斜筋)の筋電位データから筋活動量を算出し、運動課題間の比較を行った。
ハンマロビクス運動で、腰痛発症予防に重要な多裂筋の活動が有意に高まる
その結果、等尺性スクワット運動に比べてハンマロビクス運動では、下肢筋群において母趾外転筋、前脛骨筋、後脛骨筋、長腓骨筋、半腱様筋の活動が、体幹筋群において多裂筋の活動が有意に高まることがわかった。
ハンマロビクス運動では、前後の振り子運動を加えることで、足趾や足関節を意識的に動かさなくても足部内在筋、外在筋含め、足部の筋群が働いていた。この発見は新しく、関節を動かすことに制限のある人にも応用ができると考えられる。腰痛発症予防には多裂筋の活動を高めることが重要であることが報告されており、ハンマロビクス運動ではこの多裂筋の活動を高めることができることもわかった。よって、ハンマロビクス運動は腰痛発症予防のためのプログラムとして活用できる可能性がある。
より軽量な負荷を代用し、リハビリに応用できる可能性
今回のハンマロビクス運動は、バーベルや鉄球を用いていることから適応対象者は限られる。「今後、より軽量な負荷(ペットボトルなど)で代用した場合の下肢体幹筋群の活動を分析することで、中高齢者の健康増進やけがを有している方のリハビリテーションに応用できる可能性もある」と、研究グループは述べている。
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