中枢神経系免疫担当細胞ミクログリアの「非免疫」機能、PTSDの病態と関与する可能性
東北大学は9月7日、恐怖条件付けのマウスモデルを用い、ミクログリアを対象とした遺伝子発現変動を網羅的に解析した結果、神経伝達関連分子および免疫関連遺伝子が顕著に変化していることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大学大学院医学系研究科の兪志前講師、富田博秋教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Brain Research Bulletin」に掲載されている。
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中枢神経系の免疫担当細胞であるミクログリアは、炎症性サイトカイン、補体、栄養因子といったさまざまな中枢神経疾患の病態に関連した因子を産生・放出する。一方、ミクログリアから放出される炎症性サイトカインは、恐怖記憶の形成および持続にも関与することが報告されており、ミクログリアは免疫応答以外の機能も担っていることが示唆されてきた。また、近年、中枢神経系におけるミクログリアと神経系の間のコミュニケーションが注目されている。中枢神経系の神経細胞から放出された神経伝達物が、シナプス後細胞にあたる神経細胞だけでなく、ミクログリアの細胞膜にある神経伝達物質受容体も活性化していることも示されている。ミクログリアは神経細胞の活性化を感知し、ミクログリアの「非免疫」機能が神経機能を調節していることが示唆されており、恐怖記憶の過度の固定化や恐怖記憶の消去不全が、PTSDの病態を説明できるモデルのひとつであると考えられている。
恐怖記憶の制御時、ミクログリアの神経伝達関連遺伝子の発現変動、免疫応答関連の発現は減少
今回、研究グループは、マウスを用いて、恐怖条件づけ実験を実施し、ミクログリア遺伝子の発現変動を網羅的に解析した。その結果、神経伝達に関連する遺伝子群の変動、および、免疫応答遺伝子群の顕著な発現減少を認めた。このことは、神経細胞間の情報伝達に重要と考えられていた分子が恐怖記憶の制御時にミクログリアで高発現することで、ミクログリアと神経細胞が連動してミクログリアの活性が調節され、神経回路に刻まれる恐怖記憶の制御に関連している可能性を示唆した。
GABA受容体やシナプシンもタンパク質レベルで発現を確認
網羅的な遺伝子発現研究で顕著な発現変化を認めた分子の中からGABA受容体の一種であるGABRB3タンパク質、ならびに、神経伝達に関連するシナプシンタンパク質の発現を解析したところ、恐怖記憶制御の過程でミクログリアの遺伝子発現の変動がタンパク質発現のレベルでも生じていることを確認した。GABRB3タンパク質の発現はミクログリアの細胞体および突起で確認され、恐怖記憶の形成に伴いミクログリアの突起に広く発現するようになることが示された。また、これまでシナプシンは神経細胞に特異的に発現すると考えられてきたが、研究では、ミクログリアにおけるシナプシンの発現を初めて突き止められ、恐怖記憶の想起・消去による変動も確認された。
研究グループは、「現在、PTSDには根本的な治療法が見つかっていない。ミクログリアと恐怖記憶との関連を示した研究成果は、PTSDの病態解明と新たな診療技術開発の糸口として寄与することが期待されている」と、述べている。
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