発達過程でカラム状投射が形成されるメカニズムは不明だった
大阪大学は9月6日、大脳皮質の細胞が軸索をカラム状に投射するメカニズムを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の木村文隆招へい教授(統合生理学、研究当時:分子神経科学、現:滋慶医療科学大学医療科学部教授)らの研究グループによるもの。研究成果は、「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
大脳皮質にカラム状の構造があることは1950年代から知られており、後の研究により、この構造が高等動物の新皮質に共通の構造で、情報処理の機能的単位となることが明らかにされ、大脳皮質が担う高次機能の要であると考えられてきた。各カラム内では神経細胞が、その出力線維(軸索)をカラム内に選択的に伸ばしており「カラム状投射」と呼ぶが、これがカラム構造の中核をなすと考えられている。しかし、発達過程において、どのようなメカニズムでカラム状投射が形成されるのかということについては、ほとんど解っていなかった。
これまでの研究では、発達期に何らかのメカニズムで、かなり正確に自己カラム内に選択的に神経線維を伸ばすことが知られていたが、実験的操作や遺伝子改変動物でもカラム状投射が崩壊した例を報告したものがなく、関与する分子については明らかになっていなかった。
カンナビノイドを合成できないマウスは「カラム状投射」が崩壊していた
カンナビノイドは大麻(マリファナ)に含まれ、摂取による精神作用を起こす有効成分と同様の作用を起こす化学物質類の総称。神経細胞に直接作用し、神経細胞間(シナプス)での情報伝達を阻害する。一方で、体内の代謝物として生産される内因性カンナビノイドは、神経回路の形成や情報伝達の制御に重要な役割を果たす。
研究グループは今回、内因性カンナビノイドである2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)の合成酵素「ジアシルグリセロールリパーゼα」を遺伝的に欠損した動物(DGLα-KO)で、大脳皮質4層細胞の軸索投射を調べた。すると、カラム状投射が崩壊していることが判明した。
さらに発達を追って軸索投射形成を調べてみると、4層細胞は生後6~7日目から軸索を伸ばし始めるが、最初は深層(5~6層)方向に伸ばし、その後、次第に本来の投射先である2/3層へ向けて投射が逆転。この時、生後12日頃までは自己カラムを越えて隣接カラムにまで軸索を伸ばしている細胞も多数あった。しかし、4層細胞の軸索末端にカンナビノイド受容体(CB1R)が発現し出す生後13日頃以降では、隣接カラムに侵入する軸索は次第に減っていき、自己カラム内へ軸索を伸ばすように、修正されていたという。
CB1Rにより非自己カラムに侵入した軸索が選択的に刈り込まれ、カラム状投射を形成
一方、DGLα-KO動物では、生後12日頃までは野生型動物との差は見られないが、13日頃以降になっても隣接カラムに侵入する軸索はそのまま残ったままだった。このことから、隣接カラムに侵入する軸索が、選択的にカンナビノイドによって刈り込まれることにより、カラム状投射が完成することが示唆された。カンナビノイド作動薬を腹腔内に投与すると、生後12日までの投与では変化がなかったにもかかわらず、生後13日以降では、カラム内外で均等に軸索長が短縮していた。またCB1R遺伝子をごく少数の細胞だけでノックアウトすると、その細胞特異的にカラム状投射が崩壊していた。
以上のことから、生後13日以降、軸索末端に発現するCB1Rによって、非自己カラムに侵入した軸索が選択的に刈り込まれることにより、カラム状投射が形成されることが明らかとなった。
神経回路形成でカンナビノイドが中心的役割を果たすことが明らかに
今回の研究成果により、大脳皮質に広く共通する重要な構造の一つであるカラム状投射形成のメカニズムが初めて明らかにされた。これにより、大脳皮質の情報処理の共通原理の理解がさらに一歩進むと期待される。また、カンナビノイドが緻密な神経回路形成に中心的な役割を果たすことが明らかとなった。
同時に、ここではカンナビノイドが不要な投射を選択的に刈り込むことにより、正しい配線ができ上がることから、「カンナビノイドが脳全体に広がるような、大麻の摂取では、神経線維が部位非特異的に広範に刈り込まれることが予測され、神経回路形成に重大な悪影響を与えることが示唆される」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・大阪大学大学院医学系研究科 主要研究成果