血管炎症惹起の報告がある「ミュータンス菌」、がん転移への影響は?
北海道大学は9月5日、う蝕の原因細菌によって、遠隔臓器の血管炎症と血管の透過性亢進が誘導され、がんの転移が増加することを解明したと発表した。この研究は、同大大学院歯学研究院の樋田京子教授、間石奈湖助教、長谷部晃教授、北川善政教授、同大大学院歯学院博士課程のユ・リ氏、北海道大学病院の樋田泰浩准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cancer Science」に掲載されている。
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近年、口腔細菌と全身疾患の関わりが報告されるようになってきた。例えば、口腔内細菌が抜歯などの外科治療や歯周炎の病巣から血液循環に侵入し、さまざまな炎症性変化を全身に引き起こすことが明らかになっている。口腔細菌の中でもミュータンス菌は、う蝕の原因として最も有名な菌の一つ。近年のin vitro実験では、ミュータンス菌が血管炎症を起こすことが報告されていた。一方、血管の炎症は血管の透過性亢進をもたらし、血行性転移につながることが知られるようになってきた。しかし、口腔内細菌によるがんの転移への関与については不明だった。
これまで研究グループは、血管内皮細胞が炎症性変化を起こすことにより、腫瘍細胞との接着や転移の促進に働くこと報告してきた。今回の研究では、マウス乳がん血行性転移モデルを用いて、ミュータンス菌が、がんの転移にどのような影響を及ぼすのかについて調べた。
ミュータンス菌<血管の接着分子発現低下<血管透過性亢進<がん浸潤・転移
In vitro実験では、ミュータンス菌の刺激による血管内皮細胞の変化について、遺伝子レベルとタンパクレベルで解析した。また、ミュータンス菌刺激によるがん細胞の血管内皮への接着性の変化や血管透過性の変化についても検討した。次に、ミュータンス菌をマウスの尾静脈に静脈内投与し、肺における血管炎症、肺血管の透過性変化を測定。最後に、マウスがん血行性転移モデルを用いてミュータンス菌の血中循環による肺転移への影響を解析した。
その結果、ミュータンス菌の刺激によって血管内皮細胞における「炎症性サイトカイン(IL-6)」や「細胞間接着分子(ICAM-1)」の発現が亢進し、血管炎の誘発とがん細胞の血管内皮への接着が増加した。さらに、ミュータンス菌の刺激が「血管内皮細胞間接着分子(VE-cadherin)」を低下させ、血管の透過性を亢進させることが示唆された。
ミュータンス菌をマウスの血中に循環させると、肺血管内皮細胞への侵入と、血管炎症の誘発が確認された。また、肺血管の透過性が亢進し、がん細胞の血管外浸潤とがん転移が増加したという。
がん患者の口腔衛生管理がかん転移を抑制し、生存率の向上に貢献する可能性
今回の研究成果により、血中循環口腔内細菌が、血管の炎症を介してがん転移を促進する危険因子の一つであることが明らかになった。歯周炎などがあると口腔内細菌が血中に循環しやすくなるため、口腔清掃状態を良好に維持し、口腔細菌の血中への侵入を防ぐことが大切だ。同研究は、がん患者における口腔衛生管理の必要性を強く示唆している。
「がん患者の口腔衛生管理は誤嚥性肺炎の予防のみならず、がん転移の抑制にもつながり、がん患者の生存率の向上に貢献することが期待される」と、研究グループは述べている。
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・北海道大学 プレスリリース