他国と比べて睡眠不足といわれる日本の子ども、妊娠中の発酵食品摂取量との関連は?
富山大学は9月1日、子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)のデータを用いて、妊娠中の発酵食品(味噌汁・ヨーグルト・チーズ・納豆)の摂取量と、生まれた子どもの3歳時点の睡眠時間との関連を調べ、チーズを多く摂取した母親から生まれてきた子どもは、3歳時点において睡眠不足になるリスクが低くなることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学薬学教育部生命・臨床医学専攻博士課程の井上真理子氏、公衆衛生学講座の稲寺秀邦教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「BMC Public Health」に掲載されている。
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5年毎に総務省が実施している社会生活基本調査によると、平均睡眠時間は男女ともに前世紀から減少傾向にあり、特に10代の睡眠時間が短いことが明らかになっている。また、日本の子どもの睡眠時間は他の国に比べると短いといわれている。
こうした中、発酵食品の積極的な摂取が腸内細菌叢に変化を与えること、腸内細菌叢の多様性は覚醒・睡眠リズムを良好にすることが知られている。研究グループは以前、妊娠中に味噌汁を多く摂取していた母親から生まれた子どもは、1歳時点において睡眠不足のリスクが低くなることを報告している。しかし、1歳以降の関係性については明らかになっていない。
エコチル調査の参加者6万4,200組が対象、10時間未満を睡眠不足と設定
今回の研究では、エコチル調査に参加している妊婦とその子ども6万4,200組を対象に、妊娠判明から妊娠約7か月目までに摂取した発酵食品の摂取量と、3歳時点における子どもの睡眠不足との関連を調べた。発酵食品の摂取状況は、食物摂取頻度調査票の味噌汁・ヨーグルト・チーズ・納豆の回答を用いた。また、子どもの睡眠時間については、米国National Sleep Foundationが示した3歳児における1日の推奨睡眠時間(10~13時間)を基に、10時間未満を「睡眠不足」と設定して検討した。
妊娠中のチーズ摂取量がより多い群で睡眠不足の子どもの割合が低い
その結果、チーズの摂取量が最も少ない群を基準(1.0)にして、チーズの摂取量と睡眠不足の子どもの発生率を比較した場合、妊娠中のチーズ摂取量がより多い群では、3歳時点の睡眠不足の子どもの割合が少なくなるという関連が見られた。一方、味噌汁、ヨーグルト、納豆では、摂取量と睡眠不足の関連は見られなかった。
母親由来の腸内細菌叢が子どもに受け継がれる可能性を示唆
子どもの腸内細菌叢は、新生児期から乳児期、離乳期にかけて大きく変化し、3歳前後で安定化し、成人と同様の組成になるといわれている。母親由来の腸内細菌叢が子どもに受け継がれる可能性については他の研究からも報告されており、今回明らかになった結果は、こうした機序と関係しているものと推察された。
研究結果は、これまでに報告がない新規性が高い情報と考えられる。しかし、観察研究であるために因果関係まで扱えていないこと、腸内細菌叢を直接測定できていないこと、チーズの種類まで調査できていないことなどの限界が挙げられる。特に、妊娠中の非加熱のナチュラルチーズ摂取はリステリア菌の感染リスクが高まるため推奨されていない。「今後はさらにこの結果を検証し得る介入研究を行うなど、妊娠中のチーズ摂取と生まれた子どもの睡眠不足の関係について確かめていく必要がある」と、研究グループは述べている。
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