放射線被曝の問題があるCT、子どもには頻回に行えない
日本大学は9月1日、腹部生体インピーダンス法を用いた放射線被曝のない、子どもの内臓脂肪面積の測定方法を開発したと発表した。この研究は、同大医学部小児科学系小児科学分野の阿部百合子准教授(現医学教育センター)、森岡一朗主任教授、花王(株式会社ヘルス&ウェルネス研究所)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Clinical Medicine」にオンライン掲載されている。
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子どものメタボリックシンドロームは、成人生活習慣病へ直結する。メタボリックシンドロームの基本病態は過剰な内臓脂肪蓄積で、内臓脂肪面積を測定する標準的な方法は、臍レベルの腹部CTによる測定である。2002年の小児肥満症の診断基準においても、腹部CTでの内臓脂肪面積が基準として設定されている。しかし、CTには放射線被曝の問題があり、特に子どもにおいては頻回には行えなかった。このため、内臓脂肪評価の簡易指標としてウエスト周囲長が用いられているが、多くのメタボリックシンドロームの子どもは、内臓脂肪面積も皮下脂肪面積も共に大きいため、ウエスト周囲長は内臓脂肪のみを反映しているとはいえない。このため、放射線被曝なしに内臓脂肪面積を測定できる簡便な方法が求められていた。
放射線被曝のない腹部生体インピーダンス法、子どもにおいても正確に測定する方法を検証
腹部生体インピーダンス法は、放射線被曝なく内臓脂肪面積を測定する安全性の高い方法である。成人では臨床応用されているが、子どもでは体内の水分量が成人と異なるため、正確に測定できなかった。そこで、子どもにおいてどのようにすれば、腹部生体インピーダンス法を用いた内臓脂肪計で正確に測定ができるかを検証した。
補正式適用により、腹部CT内臓脂肪面積と良い相関関係を示す
まず、医学的に腹部CTが必要だった6~17歳の児の内臓脂肪面積を対象に検討した。腹部生体インピーダンス法を用いた内臓脂肪計によって測定した内臓脂肪面積の値は、同一児の腹部CTによって測定した内臓脂肪面積よりも大きい値となった。そこで、内臓脂肪計によって測定された内臓脂肪面積についてPassing–Bablok法を用い、補正式(男児はy=9.600+0.3825x、女児はy=7.607+0.3661x)を作成した。これらを適用した結果、腹部生体インピーダンス法の内臓脂肪面積と腹部CTによる内臓脂肪面積は良い相関関係が得られることが明らかになった。また、補正式適用後、非アルコール性脂肪性肝疾患の児は、なしの児と比較して内臓脂肪計で測定した内臓脂肪面積が上昇していることがわかった(p<0.001)。
血中レプチン濃度、血中アディポネクチン濃度とも相関を確認
さらに、補正式適用後、肥満関連の心血管疾患と正の関係のある血中レプチン濃度は、内臓脂肪計で測定した内臓脂肪面積と有意な正の相関を示し(p<0.001、ρ=0.719)、肥満患者や肥満関連糖尿病・心血管疾患患者で減少する血中アディポネクチン濃度は、内臓脂肪計で測定した補正式適用後の内臓脂肪面積と有意な負の相関が確認された(p=0.008、ρ=-0.423)。
診察室またはベッドサイドで、放射線被曝なく実施可能
内臓脂肪計による内臓脂肪面積測定は、診察室またはベッドサイドにて行うことができた。内臓脂肪計による測定は、腹部CTに比べて簡便で放射線被曝なく実施することができた。子どもでは、内臓脂肪計(EW-FA90)を用いて内臓脂肪面積を測定した後、測定値を補正することにより、内臓脂肪蓄積の評価として有用な方法となる。「今回の研究結果から、子どもの内臓脂肪面積測定の際に、内臓脂肪計を用いた測定方法が選択肢の一つとなり得ることが明らかになった。今後、本測定法を用いて、小児期からの生活習慣病の適切な予防につなげていくことが期待される」と、研究グループは述べている。
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